パイロットペン先の字幅記号について、メーカーがお客様向けに案内している資料などを基に、ご説明させて頂きます。
目次(クリックで飛べます)
ペン先字幅について
字幅記号などは他社でも同一名称を使用しておりますが、絶対的な基準はありません。このため、メーカーが異なると、実際に筆記される描線字幅が異なる場合があります。同じメーカーの同じ字幅記号のペン先でも、商品が異なると、描線字幅が少し異なる場合もあります。
同じ字幅表記のペン先でも、違う商品では、描線字幅が違うことがあります。これは、商品によって、先端形状が違ったりするためです。たとえば、キャップレスのBペン先は他のBペン先よりも細めですし、エリート95SのEFペン先は先端の削り方が伝統的な研ぎ方を踏襲していることから他のEFペン先よりごくわずか太めです。
同じ字幅表記でも、商品名ごとによって、字幅差があることがあります。
特にキャップレスのBペン先が顕著で、キャップレスのBペン先は、他のカスタム74などのBペン先よりも細い描線字幅になっています。
また、インクの出具合が異なれば、筆記される描線太さもごくわずか変化します(インク出の増減で、隣接する字幅領域にまで字幅が達することはありません)。
海外製万年筆の場合は、字幅が太めです。たとえば、同じF表記でも、海外製F字幅のペン先は国産のMクラスの太さの描線字幅になり、海外製品は1ランクから1.5ランクほど太めの方向にスライドしていることになります。
当店の「M形吸入方式万年筆」で使用しているペン先とPILOTペン先との字幅対照表
太いペン先の方が紙に当たる先端イリドスミン合金の大きさが大きいので、単位面積当たりの力が小さく、筆圧が分散されるため、書き味がよく、「軟らかく」感じます。細いペン先でも書き味は良いのですが、太いペン先の太さゆえの筆圧が分散された書き味は細いペン先では実現できません。
ボールペンの表示数値に関する特記事項
ボールペンの本体やレフィルに表示されている0.7などの数値は、描線字幅ではなく、ボール径となります。
表記数値(ボール径)の約1/2が筆記字幅になります。
F(細字)ボールペンのボール径は0.7mmとなり、筆記字幅は0.35mm位となります。
パイロット製品のペン先字幅記号一覧
字幅は、筆圧により変化しますので、目安です。
細字域・太字域と大きく二分するとしたら、中細までが広義の細字域・中字以上が広義の太字域と考えて良いです。
以下の字幅表記は、もっとも細く書いた条件での字幅となり、インク出が多い状態などでは、プラス0.05ミリ程度まで太くなります。
極細字域
UEF(超極細)
かつてごく一部の商品に、限定品として用意されていた字幅で、現代の超劇細ゲルインクボールペンに匹敵する描線です。
現在では生産終了し、入手も極めて困難です。
字幅記号 | UEF |
一般呼称 | ウルトラ エキストラファイン |
太さ | 超極細 |
字幅(mm) | 0.15 |
弾力 | 硬 |
EF(極細)
オーソドックスな極細ペン先です。
字幅記号 | EF |
一般呼称 | エキストラファイン |
太さ | 極細 |
字幅(mm) | 0.25 |
弾力 | 硬 |
SEF(軟極細)
エラボーのみに用意されており、形状が若干前屈みとなっているペン先です。
軟らかいので極細ながらも描線字幅に若干の強弱/抑揚をつけられます。
極細で軟らかいペン先は大変貴重で、めずらしいです。軟らかく書き味の良い極細をご希望の方におすすめです。
字幅記号 | SEF |
一般呼称 | ソフト エキストラファイン |
太さ | 極細 |
字幅(mm) | 0.25 |
弾力 | 軟 |
PO(極細)
ペン先を下向きにした硬めの極細字POは下向きに曲がっていることによりペン先先端の中心が軸の中心方向に近づくため、やや違和感をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、POは、安定した均一な太さの細字描線が筆記でき、書き味も思いの外良好で、とても良いペン先です。POは、寝かせて持つ方にも特に良好です。
見た目に違和感がなければ、POをご選択頂くのも良いご選択です。
EFの場合極端に寝かせると横線が太くなることがありますが、POをご使用頂ければ極端に寝かせて保持しても横線が太くなりません。
字幅記号 | PO |
一般呼称 | ポスティング |
太さ | 極細 |
字幅(mm) | 0.25 |
弾力 | 硬 |
細字域
F(細字)
あらゆる字幅の中で、このF字幅を選択される方がもっとも多い、パイロットを代表する字幅となります。
ほとんどの商品で、このF字幅が用意されています。
先端形状も、パイロットの長い伝統をくんだ形状で、一番におすすめできる字幅となります。
字幅記号 | F |
一般呼称 | ファイン |
太さ | 細字 |
字幅(mm) | 0.32 |
弾力 | 硬 |
SF(軟細字)
過度な字幅の強弱を付けるような筆記はできません。
字幅記号 | SF |
一般呼称 | ソフトファイン |
太さ | 細字 |
字幅(mm) | 0.32 |
弾力 | 軟 |
中細字域
FM(中細)
Fでは細すぎ、Mでは太すぎる方に向く、中間クラスのほどよい字幅のペン先です。
字幅記号 | FM |
一般呼称 | ファインミディアム |
太さ | 中細 |
字幅(mm) | 0.4 |
弾力 | 硬 |
SFM(軟中細)
過度な字幅の強弱を付けるような筆記はできません。
字幅記号 | SFM |
一般呼称 | ソフト ファインミディアム |
太さ | 中細 |
字幅(mm) | 0.4 |
弾力 | 軟 |
FA(フォルカン)
筆圧によって字幅やインク出が激変する、非常に柔らかい毛筆の筆跡ともいえるようなペン先です。
字幅の強弱が強調でき、筆圧の高い方には不向き
カスタム743・カスタム742・カスタムヘリテイジ912で用意されている字幅となります。
カスタム743のFAは他のFAと比べて、少し硬めです。
筆記描線に強弱・抑揚がつけられる唯一ともいえるペン先となります。
昔のつけペンのGペンのようなつくりです。同じフォルカンでも、カスタム743のフォルカンのほうが、カスタム742や912のフォルカンよりも硬めです。
字幅記号 | FA |
一般呼称 | フォルカン |
太さ | 中細 |
字幅(mm) | 筆圧によって変化 |
弾力 | 極軟 |
中字域
中字域以上が、広義の太字域となります。
広義の太字域以上の太さのペン先は、後述のひねり許容性への配慮が必要になる場合があります。
M(中字)
Fと並ぶ、パイロットを代表する字幅です。
Fと比べると太いため、細かい文字の筆記には向きませんが、少し大きめの文字でゆったりお書き頂くような用途に向きます。
字幅記号 | M |
一般呼称 | ミディアム |
太さ | 中字 |
字幅(mm) | 0.5 |
弾力 | 硬 |
SM(軟中字)
過度な字幅の強弱を付けるような筆記はできません。
字幅記号 | SM |
一般呼称 | ソフトミディアム |
太さ | 中字 |
字幅(mm) | 0.5 |
弾力 | 軟 |
WA(ウェーバリー)
ペン先を上向きにした軟らかめの中字
WAは独特の上向きに曲がっている形状のため、好む方もいらっしゃいます。しかし、その独特の形状のため、ペン先先端の中心が軸の外径方向によりオフセットするので、やや使いにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。また、伝統的に、WAは筆跡が独特の感じになり、好みが別れるとも言われています。
字幅記号 | WA |
一般呼称 | ウェーバリー |
太さ | 超極細 |
字幅(mm) | 0.5 |
弾力 | 硬 |
太字域
B(太字)
名実ともに太いペン先です。
太いペン先を代表する字幅となります。
字幅記号 | B |
一般呼称 | ブロード |
太さ | 太字 |
字幅(mm) | 0.61 |
弾力 | 硬 |
SB(軟太字)
エラボーのみに用意されており、形状が若干前屈みとなっているペン先です。
過度な字幅の強弱を付けるような筆記はできません。
字幅記号 | SB |
一般呼称 | ソフトブロード |
太さ | 太字 |
字幅(mm) | 0.61 |
弾力 | 軟 |
SU(スタブ)
縦の線は太字、横の線は中細字
縦線、横線の字幅が異なるため、文字に味が出る
描線の輪郭がくっきりとしたクリアーな感じになり、几帳面な印象の文字が描けます
やや寝かさないと、縦横差が出なかったりします
昔のスタブはイリドスミン合金厚みが薄い構造でイリドスミン合金厚みを薄くすることによって細い横字幅を出しておりましたが、パイロットのSUは四角の角で書くような構成のため、筆記角度によっては、縦横の字幅差があまり出ない場合があります。
字幅記号 | SU |
一般呼称 | スタブ |
太さ | 縦太横細 |
字幅(mm) | 0.63 |
弾力 | 硬 |
極太字域
BB以上の太さのペン先はやや特殊な領域に入ります。
BB(極太)
太字では物足りない方に向く、太字よりもう一回り太いペン先です。
字幅記号 | BB |
一般呼称 | ブロードブロード |
太さ | 極太 |
字幅(mm) | 0.72 |
弾力 | 硬 |
C(特太)
Cは、通常筆記タイプの最太ペン先です。イリドスミン合金先端が大胆に平面に研がれている部分があるので、筆記角度やひねりによっては若干使いにくい場合があり、後述のひねり許容性に配慮が必要です。
字幅記号 | C |
一般呼称 | コース |
太さ | 特太 |
字幅(mm) | 0.85 |
弾力 | 硬 |
MS(楽譜用)
楽譜用の写譜ペンとなります。音符を書くときの独特の使い方につては、写譜ペンをご参照下さい。
一般的に楽譜用と言われているが、SUのように字幅が異なるので、カリグラフィーペンのように使える
写譜用の特殊なペン先です。用途もさることながら、形状も変わっていて、切り割りが二本あり、イリドスミン合金を3つに分けています。
3つに分けているのは、後述のひねり許容性に配慮するためです。
SUと同様のペン先として文字筆記用に使用することも可能です。
字幅記号 | MS |
一般呼称 | ミュージック |
太さ | 縦太横細 |
字幅(mm) | 0.9 |
弾力 | 硬 |
M形吸入方式万年筆に装着される14金ペン先とPILOTペン先との字幅対照表
M形吸入方式万年筆に装着される14金ペン先がパイロットペン先のどの字幅に相当するかを示した表になります。
実際に筆記した字幅を測定し、割り出しています。
M形吸入方式万年筆 14金ペン先字幅 |
PILOTペン先の 相当する字幅 |
EF | PILOT-F |
F | PILOT-FM |
M | PILOT-M |
B | PILOT-BB |
BB | PILOT-C |
ペン先ご選択に関する参考情報
F字幅とM字幅の端的な字幅体験方法
F字幅はおよそ0.3ミリ、M字幅は0.5ミリですので、0.3と0.5のシャープ芯を立てて芯の断面積で書いて頂ければ、それぞれの太さを実感して頂くことができます。
ペン先の硬さについて
パイロットのペン先は、特に昭和40年代前後、万年筆店では「パイロットのハード志向」と言われ、硬いペン先が主流でした。
現在でも、Fペン先やMペン先は、伝統の硬めのタッチです。
もっとも、現在では、柔らかいペン先も多く出てきており、ハード志向とはいえない状況となっております。
柔らかいペン先のリスク
Sのつくソフト調のペン先がある字幅の場合、ソフト調のペン先と悩むところです。
一般的にはSのつかない通常のペン先をお勧めします。筆圧が強い方にはSのつくペン先はお勧めしません。
筆記の際、柔らかさを実感したい場合は、Sのつくペン先が良いです。
柔らかいペン先の場合、普段筆圧が弱い方でも、筆圧が強くなるとき、たとえば、締め切り間際に、焦って大量の文字を筆記したいようなときや、試験用途では、ペン先の柔らかさに憤りを感じることがあります。
柔らかいペン先がお好みの方でも、非常用に硬いペン先もご用意なさる方が賢明です。逆に言えば、焦る可能性があるお席でご使用になるときは、硬いペン先の方が良いです。
どちらかといえば、硬いペン先の方が汎用性があるわけです。
ペン先が筆圧に耐える能力
ペン先の材質と筆圧に耐える能力
万年筆ペン先素材としては、現在、ステンレスや、14金などの金合金が使われています。
ステンレスと金合金では、ステンレスの方が硬いイメージをお持ちではないでしょうか。
たしかに、書いてみますと、ステンレスペン先の方が(前述の物理的弾力は)硬めです。
ところが、ステンレスペン先の方が筆圧に耐えるというかというと、そうでもないのです。
ステンレスペン先だからといってより強い筆圧に耐えるわけではありません。
ステンレスでも金合金ペン先でも、より強い筆圧でお書きになる場合は、別途考慮する必要があります。
「バネ性」に着目すると、実は14金ペン先の方がバネ性では勝っているのです。
変形したペン先を修正するとき、ステンレスペン先よりも、14金ペン先の方が強めの力が必要だったりします。
ステンレスペン先は、特にインク出良く設定したものは、前述の心理的弾力が柔らかくなり、なかなか良いものですが、強い筆圧で書くと、その筆圧でペン先が変形したままとなり、ペン先先端が左右食い違って段差がついたままとなり、ざらつきの原因となることがあります。
金のペン先の良いところは、何と言っても、書いたときのタッチが硬めなものでも、奥底に金特有の3次元的な書き味の柔らかさがあることです。この書き味弾力は、ステンレスのペン先では出せないものです。
ペン先は、14金ペン先が素材特性からもベストです。メーカーでは、14金は、24-14の10、10/24の約42%分他の金属を混ぜて特性を調整できるので、ペン先としてふさわしい、と、説明されています。
14金ペン先がベストと言われるゆえんは、この、バネ性と柔らかさのバランスがとれているからです。
ステンレスペン先でも、金のペン先でも、軽い筆圧で筆記して頂くのが一番です。
今回書いて頂いた事項は、ご本人のみが使用し、過度な筆圧で書かない限り特にご心配はいりません。
もっとも食い違いや変形が起きやすいのは、他人にお貸しになったときです。強い筆圧で書かれてしまい変形してしまうことが非常に多いので、ご注意下さい。
インク出と筆圧に耐える能力
ペン先材質に限らず、インク出少なめに設定したペン先のほうが、強い筆圧に耐えます。
メーカー出荷状態で、インク出が少ない設定のものが多いのはなぜか疑問に思われる方も多いと思いますが、ボールペンを多用せざるを得ない現代社会では、筆圧が強い方が多いため、各販売店向けの万人向きには、筆圧に耐えるペン先(書いたときインク出が少なめのペン先)のほうに設定せざるを得ないわけです。
筆圧をかけ過ぎた場合
ペン先素材にかかわらず、過度に筆圧を加えすぎて書いた場合、左右の切り割りがずれる可能性があります。
ペン先は、ミュージックペン先などの特殊なものをのぞいて、一枚の板の先端を二つに割ったもので筆記します。筆圧を加えすぎた場合、その左右に段差が出来てしまうわけです。そのようになってしまうと、左右に運筆したときに、どちらか一方が露骨にざらつきます。
強弱・抑揚をつける書き方
ペン先にある程度の力を加えて、字幅描線に細太抑揚をつけるような書き方が出来るペン先は、それほど多くはないです。
上記ペン先リストの中で、安全に抑揚がつけられるペン先はFA(フォルカン)位です。
弾力を求めるために、筆圧を加減して、先端が自在に開くまで力を加えるようなご使用は基本的におすすめできません。そのような使い方が唯一可能なのはFA(フォルカン)位です。筆圧を加えすぎてもきちんと作られたバネ性(少しくらい筆圧が強くても弾性域を保ち、変形することが無いこと)のあるパイロットの14金のようなものでしたら、すぐにペン先が傷むものでもありません。
ステンレスや14金18金を超える金のペン先ですと、筆圧が少しでも強かったりすると、14金ほどバネ性が無いため、強く力が加えられたその形状で形が定まってしまう(変形したままになってしまう)ことがあります。
このような弾性や耐変形性は、ペン先地金に力を加えて修理したりした経験がないとわからないものなので、通常はあまり言われていませんが、当店では様々な経験から判断できますので、詳細はお問い合わせ下さい。ただし、これらは、筆跡に変化が出るくらいまで、ぐいぐいと力を加えるようなケースを想定しており、通常のご使用下ではご心配は要りません。
しなるようなやわらかい弾力のものが良い場合は、事前に、適正なペン先をご選択頂く必要があります。同じペン先表記でも、商品によって硬さ柔らかさは若干異なります。
そのような商品としては、もっとも弾力があるものとしては、FA(カスタム743・742・カスタムヘリテイジ912にラインナップされています)、次に通常のペン先よりソフト感のあるペン先としては、SF/SFM/SMの各ペン先(カスタム74と742・743・カスタムヘリテイジ91・カスタムヘリテイジ912にラインナップされています)、その他個別に、同じFなどの字幅記号でも、より柔らかめのペン先が装着されている商品として、シルバーン・カスタムカエデ・キャップレスの18金ペン先などが挙げられます。
エラボーは、ラインナップされているペン先すべてが柔らかいペン先です。
このほかにも各種ございますが、詳細は個別にご相談下さい。基本的にはあまり柔らかさは追求しなくても、書き味良くお納めすればどれでもほぼご満足頂ける水準になると思って頂いて結構です。
もちろん、物理的な柔らかさのあるペン先も、書き味良くないと、かえって硬く感じることもあります。
ひねり許容性について
中字以上の広義の太字域のペン先に特有の現象として、ひねり許容性(「書き出しかすれ」、「タッチ切れ」などと言われることもあります)がございます。
ペン先先端の二つに割れた切り割り部が紙に接触することで、インクが紙上へ筆記されます。
この切り割り部が均等に紙に当たらないと、ペン先を紙に当てて筆記してもインクが紙に乗りません。
特に、ペン先を傾けたり、軸を回すように「ひねったり」して書くと、紙には、ペン先先端の切り割り部ではなく角が紙に当たり、インクが出ないことがあります。特にペン先の刻印が自分の方を向くように、軸を左に少し回すように「ひねって」保持される方も多いと思います。
また、切り割り部の角の面取りが過度な場合、切り割り部が紙に当たっていても、ペン先の先端までインクが来ないことから、紙にインクが乗らないことがあります。
中字以上のペン先の場合、太いペン先ほどひねり許容性について考慮する必要があります。
お客様の側でペン先に合った持ち方をする、すなわち、先端の切り割りが適切に紙に接触するような持ち方をなされば、ひねり許容性は起きにくいです。
写譜ペンのMSペン先が3つに割れているのは、先端が板のようにまっすぐなため、通常のペン先のように2つに割れているとしたら、切り割り部がまともにペン先に当たることは少ないためです。3つに割らないとひねり許容性に対応できないのです。
ひねり許容性は、細字域のペン先で起きることは少ないです。
困ったことに、ひねり許容性は、通常店頭で試すような瓶のインクをペン先に着けて書くような方法ではわかりにくいです。インクをペン先に着けて書くような書き方は、好条件となり、書き出しにインクが出ないトラブルは起きにくいです。
しかし、中にインクを入れて書いて頂くと、書き出しにインクが出ないひねり許容性の問題が発生してしまうのです。
とはいえ、ひねり許容性の問題が起きることは少なく、このことから太いペン先のご選択を断念する必要はまったくありません。
ひねり許容性が出てしまった場合、お客様によってお好みが大きく分かれます。ひねり許容性が出てしまっても、太いペン先はこのようなものだ、とお使い頂く方もいらっしゃいますが、弱い筆圧で紙に当てたとき、書き出しにインクが出ることを望まれる方もいらっしゃいます。
ひねり許容性を図でご説明
上記の図をもとにご説明させて頂きます。
インクが紙へ伝わるためには、ペン先先端の切り割った部分までインクが来て、ペン先先端に来ているインクが紙に当たらないと、インクは紙に乗らないです。
ペン先が細い場合は、図Aのように紙に均等に先端が当たるように書いた場合はもとより、図Bのようにひねっても(紙から少し傾けても)、細いために切り割り部分は紙に当たり、インクは紙上に伝わります。
一方で、ペン先先端に着いているイリドスミン球は、太字ペン先ほど大きな玉がつきます。大きな玉がついていれば一見太く書けそうですが、いくら大きな玉をつけても、球のままですと、紙に接する部分は円弧の一点となり、描線は細いです。
このため、図Cのように、少し先端にランド(幅)をつけ、平面で当たるようにして太く書けるようにしています。パイロットのコースペン先をご覧頂けばこの平面がよくわかります。
紙に均等に当てる場合、図Cのように、ペン先先端のインクが来ている切り割り部は、紙に適切に当たるため、インクは紙に伝わります。
ひねって書くと、図Dのように、ペン先の角が先に当たり、切り割り部分と紙との間に隙間が出来、インクは伝わりません。
ひねり許容性が、主として太字域のペン先で問題となるのは、このような理由からです。
原則は上記のようになりますが、二つに切り割った先端は割れているため、上下に動きますし、インクも液体で動きますので、Dのような状態でも絶対に紙にインクが伝わらないということはないく、紙に当たった方の図Dの左側のペン先先端が動く(切り割りがずれる)ことにより、先端が均等に当たってインクが紙に伝わることも多いです。しかし、筆圧が弱い場合は、切り割った先端がずれることはないため、Dの状態で書くこととなり、インクが紙に伝わることはありません。
また、ペン先先端で切り割った部分は、書き味に影響を及ぼすため、指のツメを切った部分をヤスリ掛けするように、内側の切り割った部分をなだらかにして面を取ります。
もし切り割っただけですと、紙の紙面を引っ掻くほど書き味は悪いです。図Gは切り割っただけのような状態、図Eは面を取った状態を少し大げさに書いた図です。
面を取る量や程度は、メーカーの担当者によって割と違いが出るものです。この作業は手作業となるため、担当する方の個人差が結構出るものです。
面を取った状態が大きいと、書き味は良いですが、図Eのようになるため、インクは先端まで来ません。そのため、図Eのようにペン先先端を紙に均等に当てても、インクは紙に伝わりません。
この状態でも、紙に当てたときに筆圧が掛かると、先端が開き、インクが流動し、図Fのように、インクがペン先先端まで来て、紙にインクが伝わります。
ペン先先端のインクが図Fの状態になって、筆記を継続すれば、先端まで来たインクは図Eのように「戻る」ことはありませんが、数十秒でも筆記が中断しますと、ペン先先端の金属表面がインク液体の膜を持続することが出来ず、再び図Eのように、先端まで来たインクが戻ってしまいます。ペン先が乾いたわけではないのに、数十秒経過するとインクが紙に伝わらなくなることがあるのは、この理由によるものです。
キャップレスの場合は、シャッター開閉のたびにペン先の先端にシャッターが当たるため、ノックしてペン先を出すとFの状態になります。
先端の面取り量が少ないと、図Gのように先端までインクが来るので、インクは紙に伝わります。また、面を大きく取った場合でも、先端の開きが少なければ、図Hのように、先端までインクが伝わります。
ひねり許容性の実際は、面取りの影響と、先端形状の影響、この両者が原因となるため、図Dと図Eの両者が同時に影響して問題が起きていることが多いです。
このほかにも、インクの性質(粘度や乾きやすさ)や、ペン芯の性能によっても条件は左右されます。
特にペン芯は、ぼた落ちしないという前提で、ペン芯がペン先に必要量以上のインクを常に送り届ける効果である「追い風効果」に富むほうが理想的ですが、これはペン芯の設計段階の話で、事後的なペン芯の改善(出来上がった状態のペン芯部品を追加工して改善するようなこと)は不可能です。
ひねり許容性の対処方法
改善策としては、形状が図Eのようになっているペン先は、インク出を少し絞って図Hのようにする方法や、先端を見て判別できない程度のごく少量先端を削って図Gに近くすることが方法があります。逆にインク出を増やすことにより対処できる場合もあります。また、図Dのように角が当たっているところがあればそこを修正します。削るといっても、必要最小限の見た目でほとんどわからない位の量です。歯のかみ合わせ調整と同じようなもので、削る量は極小だが、効果は絶大と言った感じでしょうか。
パイロットでも、書き出しかすれの修正依頼は、お客様の筆記姿勢を2方向から写した写真を添付することが望ましいとされています。
ある一定角度で平らにすれば、その角度では条件は良いですが、他の角度ではDの現象が起きますので、ある角度で平面をつくるようなことはしないほうがよく、いくらお客様がその角度で書くと言っても、ある一定角度で平らに研ぎおろすなど、もってのほかです。
ペン先は必ずしも書き手がペン先に合わせる必要はありませんが、ペン先に合った持ち方が可能ならば、持ち方・紙へのペン先の当て方を工夫して頂くことにより改善されることがあります。
ひねり許容性については、メーカー出荷状態でも起きることがあります。当店では、お客様のご使用状況をお伺いし、ベストな方法で改善させて頂きます。
第一次的には削らずに対処しておりますが、最終的には、ごくごくわずか削ることによって対処することも多いです。
字幅記号一覧表(まとめ)
PILOT字幅記号 |
一般呼称 | 太さ | 字幅㎜ | 弾力 |
UEF
|
ウルトラ
エキストラファイン |
超極細
|
0.15
|
硬
|
EF
|
エキストラファイン
|
極細
|
0.25
|
|
SEF
|
ソフトエキストラ
ファイン |
軟
|
||
PO
|
ポスティング
|
硬
|
||
F
|
ファイン
|
細字
|
0.32
|
|
SF
|
ソフトファイン
|
軟
|
||
FM
|
ファイン
ミディアム |
中細
|
0.4
|
硬
|
SFM
|
ソフトファイン
ミディアム |
軟
|
||
FA
|
フォルカン
|
筆圧により
変化 |
極軟
|
|
M
|
ミディアム
|
中字
|
0.5
|
硬
|
SM
|
ソフトミディアム
|
軟
|
||
WA
|
ウェーバリー
|
硬
|
||
B
|
ブロード
|
太字
|
0.61
|
硬
|
SB
|
ソフトブロード
|
|||
SU
|
スタブ
|
縦太横細
|
0.63
|
|
BB
|
ブロードブロード
|
極太
|
0.72
|
|
C
|
コース
|
特太
|
0.85
|
|
MS
|
ミュージック
|
縦太横細
|
0.9
|