使用しているペン先

masahiro万年筆製作所製品に使用しているペン先についてご説明させて頂きます。

商品ごとに装着されるペン先のリスト

現在、メインで以下2種類のペン先を使用しております

  • 14金ペン先

以下●箇所のペン先が装着されます。

14金ペン先
F字幅
14金ペン先
M字幅
M形吸入方式 15ミリ

使用ペン先の概要

当店採用のペン先に、専用設計で新規開発した自社製エボナイトペン芯を装着すれば、ペン先のもつポテンシャル(潜在能力)を引き出すことができます。
一般的な手作り万年筆は、メーカーから供給された、ペン先とペン芯、そしてペン先とペン芯が入りカートリッジやコンバーター差し込み口設けられた筒であるスリーブやソケットと言われる部品、この3点が組み上がった構成ユニットを首に装着し、カートリッジ・コンバーターで使用するような仕様「カートリッジコンバーター両用式」で製作されることがほとんどです。

しかしながら、メーカー供給のペン芯は満足の行くものではありませんでした。
ハンドメイド万年筆であっても、上記のように、ペン先はこの構成ユニットのまま装着して製作すれば、かなり省力化できます。
でも、それでは、満足の行く結果にはなりません。
何より、M形吸入方式に特化したペン芯設計にしないと上手く機能しませんし、ペン先ペン芯の固定力がメーカー供給の構成ユニットでは満足の行く固定では無いのです。
ゼロからペン芯を開発し、用意致しました。

当店のペン先は、書き味がよく、心理的に柔らかい感じがするペン先です。
ペン先としてふさわしい金品位は14金または18金ですので、14金ペン先を採用しております。また、インク供給方式に特化したペン芯、すなわち、当店採用のペン先とmasahiro万年筆製作所のM形吸入方式に特化したペン芯を装着しております。

ペン先の、出荷状態における書き味は最上の状態のものばかりではないため、当店でご好評の書き味検品調整を入念に施し、ペン芯と合わせてペン先に秘めたポテンシャルを引き出したような状態に仕上がっております。書き味が悪ければ、魅惑の弾力も全く感じられないのです。十分に納得のいくまで取り組ませて頂いた結果、満足の行く状態でご用意することができました。

使用ペン先の金品位

ペン先の材質は、基本的に14金を使用しています。ペン先に用いる金としては、14金がベストであることは、古今東西万年筆界の共通認識であります。現在では14金以外のペン先もありますが、万年筆ペン先の金品位としては、14金または18金が良く、それ以上の金品位は必要ありません。耐腐食性も10金や12金では物足りないですが、14金でしたら、じゅうぶんです。
金は24金が100%のため、14金は約58.5%、18金は75%が金となります。
金のペン先は、ステンレスのペン先と比べ、書き味を立体的にするとでも言えるような、なんとも言えない良さを呈するものです。これがゆえに、金を配合したペン先を使用するのです。
14金でもじゅうぶん柔らかい書き味は出せますし、かつてあった23金のペン先は14金ほど柔らかいものではありませんでした。
14金は、金以外を配合させる余地が多く、優れたペン先を作ることが出来る、と言われております。
14金地金のバネ性(少しくらい筆圧が強くても弾性域を保ち、変形することが無いこと)が特に優れていることは、、曲がったペン先を修正するような作業をするときに、とてもよくわかります。修正作業は、14金がいちばん作業しやすく、ステンレスや、18金を超える金品位のペン先は作業が行いづらいです。
ステンレスや14金18金を超える金のペン先ですと、筆圧が少しでも強かったりすると、14金ほどバネ性が無いため、強く力が加えられたその形状で形が定まってしまう(変形したままになってしまう)ことがあります。
ペン先先端には、イリドスミン合金と呼ばれる硬い金属が溶着されております。溶着は、金自体が溶けてイリドスミン合金を包み込むように着いています。この保持力も14金または18金が優れます。
上記のような理由から、14金または18金のペン先を使用しております。
当店のすべての商品は、ペン先を自社製造のペン芯に合わせて軸に装着されます。

ペン先字幅について

字幅記号などは他社でも同一名称を使用しておりますが、絶対的な基準はありません。このため、メーカーが異なると、実際に筆記される描線字幅が異なる場合があります。同じメーカーの同じ字幅記号のペン先でも、ペン先の品種が異なると、描線字幅が少し異なる場合もあります。
同じ字幅表記のペン先でも、違う商品では、描線字幅が違うことがあります。これは、商品によって、先端形状が違うことがあるためです。
同じ字幅表記でも、商品名ごとによって、字幅差があることがあります。
また、インクの出具合が異なれば、筆記される描線太さもごくわずか変化します(インク出の増減で、隣接する字幅領域にまで字幅が達することはありません)。
海外製ペン先の場合は、字幅が太めです。たとえば、同じF表記でも、海外製F字幅のペン先は国産のMクラスの太さの描線字幅になり、海外製品は1ランクから1.5ランクほど太めの方向にスライドしていることになります。
当店の「M形吸入方式万年筆」で使用しているペン先とPILOTペン先との字幅対照表

太いペン先の方が紙に当たる先端イリドスミン合金の大きさが大きいので、単位面積当たりの力が小さく、筆圧が分散されるため、書き味がよく、「軟らかく」感じます。細いペン先でも書き味は良いのですが、太いペン先の太さゆえの筆圧が分散された書き味は細いペン先では実現できません。

ボールペンの表示数値に関する特記事項

ボールペンの本体やレフィルに表示されている0.7などの数値は、描線字幅ではなく、ボール径となります。
表記数値(ボール径)の約1/2が筆記字幅になります。
F(細字)ボールペンのボール径は0.7mmとなり、筆記字幅は0.35mm位となります。

M形吸入方式万年筆に装着される14金ペン先とPILOTペン先との字幅対照表

M形吸入方式万年筆に装着される14金ペン先がパイロットペン先のどの字幅に相当するかを示した表になります。
実際に筆記した字幅を測定し、割り出しています。

M形吸入方式万年筆
14金ペン先
字幅
PILOTペン先の
相当する字幅
EF PILOT-F
F PILOT-FM
M PILOT-M
B PILOT-BB
BB PILOT-C

ペン先ご選択に関する参考情報

柔らかいペン先のリスク

柔らかいペン先の場合、普段筆圧が弱い方でも、筆圧が強くなるとき、たとえば、締め切り間際に、焦って大量の文字を筆記したいようなときや、試験用途では、ペン先の柔らかさに憤りを感じることがあります。
柔らかいペン先がお好みの方でも、非常用に硬いペン先もご用意なさる方が賢明です。逆に言えば、焦る可能性があるお席でご使用になるときは、硬いペン先の方が良いです。
どちらかといえば、硬いペン先の方が汎用性があるわけです。

ペン先が筆圧に耐える能力

ペン先の材質と筆圧に耐える能力

万年筆ペン先素材としては、現在、ステンレスや、14金などの金合金が使われています。
ステンレスと金合金では、ステンレスの方が硬いイメージをお持ちではないでしょうか。
たしかに、書いてみますと、ステンレスペン先の方が(前述の物理的弾力は)硬めです。
ところが、ステンレスペン先の方が筆圧に耐えるというかというと、そうでもないのです。
ステンレスペン先だからといってより強い筆圧に耐えるわけではありません。
ステンレスでも金合金ペン先でも、より強い筆圧でお書きになる場合は、別途考慮する必要があります。
「バネ性」に着目すると、実は14金ペン先の方がバネ性では勝っているのです。
変形したペン先を修正するとき、ステンレスペン先よりも、14金ペン先の方が強めの力が必要だったりします。
ステンレスペン先は、特にインク出良く設定したものは、前述の心理的弾力が柔らかくなり、なかなか良いものですが、強い筆圧で書くと、その筆圧でペン先が変形したままとなり、ペン先先端が左右食い違って段差がついたままとなり、ざらつきの原因となることがあります。
金のペン先の良いところは、何と言っても、書いたときのタッチが硬めなものでも、奥底に金特有の3次元的な書き味の柔らかさがあることです。この書き味弾力は、ステンレスのペン先では出せないものです。
ペン先は、14金ペン先が素材特性からもベストです。メーカーでは、14金は、24-14の10、10/24の約42%分他の金属を混ぜて特性を調整できるので、ペン先としてふさわしい、と、説明されています。
14金ペン先がベストと言われるゆえんは、この、バネ性と柔らかさのバランスがとれているからです。

ステンレスペン先でも、金のペン先でも、軽い筆圧で筆記して頂くのが一番です。

今回書いて頂いた事項は、ご本人のみが使用し、過度な筆圧で書かない限り特にご心配はいりません。
もっとも食い違いや変形が起きやすいのは、他人にお貸しになったときです。強い筆圧で書かれてしまい変形してしまうことが非常に多いので、ご注意下さい。
特に、万年筆を入手した直後、家族の皆様で、どのような書き味か試し合って、ペン先を変形させてしまう例がとても多いです。

インク出と筆圧に耐える能力

ペン先材質に限らず、インク出少なめに設定したペン先のほうが、強い筆圧に耐えます。
メーカー出荷状態で、インク出が少ない設定のものが多いのはなぜか疑問に思われる方も多いと思いますが、ボールペンを多用せざるを得ない現代社会では、筆圧が強い方が多いため、各販売店向けの万人向きには、筆圧に耐えるペン先(書いたときインク出が少なめのペン先)のほうに設定せざるを得ないわけです。

筆圧をかけ過ぎた場合

ペン先素材にかかわらず、過度に筆圧を加えすぎて書いた場合、左右の切り割りがずれる可能性があります。
ペン先は、ミュージックペン先などの特殊なものをのぞいて、一枚の板の先端を二つに割ったもので筆記します。筆圧を加えすぎた場合、その左右に段差が出来てしまうわけです。そのようになってしまうと、左右に運筆したときに、どちらか一方が露骨にざらつきます。

ひねり許容性について

中字以上の広義の太字域のペン先に特有の現象として、ひねり許容性(「書き出しかすれ」、「タッチ切れ」などと言われることもあります)がございます。
ペン先先端の二つに割れた切り割り部が紙に接触することで、インクが紙上へ筆記されます。
この切り割り部が均等に紙に当たらないと、ペン先を紙に当てて筆記してもインクが紙に乗りません。
特に、ペン先を傾けたり、軸を回すように「ひねったり」して書くと、紙には、ペン先先端の切り割り部ではなく角が紙に当たり、インクが出ないことがあります。特にペン先の刻印が自分の方を向くように、軸を左に少し回すように「ひねって」保持される方も多いと思います。
また、切り割り部の角の面取りが過度な場合、切り割り部が紙に当たっていても、ペン先の先端までインクが来ないことから、紙にインクが乗らないことがあります。
中字以上のペン先の場合、太いペン先ほどひねり許容性について考慮する必要があります。
お客様の側でペン先に合った持ち方をする、すなわち、先端の切り割りが適切に紙に接触するような持ち方をなされば、ひねり許容性は起きにくいです。
写譜ペンのMSペン先が3つに割れているのは、先端が板のようにまっすぐなため、通常のペン先のように2つに割れているとしたら、切り割り部がまともにペン先に当たることは少ないためです。3つに割らないとひねり許容性に対応できないのです。
ひねり許容性は、細字域のペン先で起きることは少ないです。
困ったことに、ひねり許容性は、通常店頭で試すような瓶のインクをペン先に着けて書くような方法ではわかりにくいです。インクをペン先に着けて書くような書き方は、好条件となり、書き出しにインクが出ないトラブルは起きにくいです。
しかし、中にインクを入れて書いて頂くと、書き出しにインクが出ないひねり許容性の問題が発生してしまうのです。
とはいえ、ひねり許容性の問題が起きることは少なく、このことから太いペン先のご選択を断念する必要はまったくありません。
ひねり許容性が出てしまった場合、お客様によってお好みが大きく分かれます。ひねり許容性が出てしまっても、太いペン先はこのようなものだ、とお使い頂く方もいらっしゃいますが、弱い筆圧で紙に当てたとき、書き出しにインクが出ることを望まれる方もいらっしゃいます。

ひねり許容性を図でご説明

上記の図をもとにご説明させて頂きます。
インクが紙へ伝わるためには、ペン先先端の切り割った部分までインクが来て、ペン先先端に来ているインクが紙に当たらないと、インクは紙に乗らないです。
ペン先が細い場合は、図Aのように紙に均等に先端が当たるように書いた場合はもとより、図Bのようにひねっても(紙から少し傾けても)、細いために切り割り部分は紙に当たり、インクは紙上に伝わります。

一方で、ペン先先端に着いているイリドスミン球は、太字ペン先ほど大きな玉がつきます。大きな玉がついていれば一見太く書けそうですが、いくら大きな玉をつけても、球のままですと、紙に接する部分は円弧の一点となり、描線は細いです。
このため、図Cのように、少し先端にランド(幅)をつけ、平面で当たるようにして太く書けるようにしています。パイロットのコースペン先をご覧頂けばこの平面がよくわかります。
紙に均等に当てる場合、図Cのように、ペン先先端のインクが来ている切り割り部は、紙に適切に当たるため、インクは紙に伝わります。
ひねって書くと、図Dのように、ペン先の角が先に当たり、切り割り部分と紙との間に隙間が出来、インクは伝わりません。
ひねり許容性が、主として太字域のペン先で問題となるのは、このような理由からです。

原則は上記のようになりますが、二つに切り割った先端は割れているため、上下に動きますし、インクも液体で動きますので、Dのような状態でも絶対に紙にインクが伝わらないということはないく、紙に当たった方の図Dの左側のペン先先端が動く(切り割りがずれる)ことにより、先端が均等に当たってインクが紙に伝わることも多いです。しかし、筆圧が弱い場合は、切り割った先端がずれることはないため、Dの状態で書くこととなり、インクが紙に伝わることはありません。

また、ペン先先端で切り割った部分は、書き味に影響を及ぼすため、指のツメを切った部分をヤスリ掛けするように、内側の切り割った部分をなだらかにして面を取ります。
もし切り割っただけですと、紙の紙面を引っ掻くほど書き味は悪いです。図Gは切り割っただけのような状態、図Eは面を取った状態を少し大げさに書いた図です。
面を取る量や程度は、メーカーの担当者によって割と違いが出るものです。この作業は手作業となるため、担当する方の個人差が結構出るものです。
面を取った状態が大きいと、書き味は良いですが、図Eのようになるため、インクは先端まで来ません。そのため、図Eのようにペン先先端を紙に均等に当てても、インクは紙に伝わりません。
この状態でも、紙に当てたときに筆圧が掛かると、先端が開き、インクが流動し、図Fのように、インクがペン先先端まで来て、紙にインクが伝わります。
ペン先先端のインクが図Fの状態になって、筆記を継続すれば、先端まで来たインクは図Eのように「戻る」ことはありませんが、数十秒でも筆記が中断しますと、ペン先先端の金属表面がインク液体の膜を持続することが出来ず、再び図Eのように、先端まで来たインクが戻ってしまいます。ペン先が乾いたわけではないのに、数十秒経過するとインクが紙に伝わらなくなることがあるのは、この理由によるものです。
キャップレスの場合は、シャッター開閉のたびにペン先の先端にシャッターが当たるため、ノックしてペン先を出すとFの状態になります。

先端の面取り量が少ないと、図Gのように先端までインクが来るので、インクは紙に伝わります。また、面を大きく取った場合でも、先端の開きが少なければ、図Hのように、先端までインクが伝わります。

ひねり許容性の実際は、面取りの影響と、先端形状の影響、この両者が原因となるため、図Dと図Eの両者が同時に影響して問題が起きていることが多いです。

このほかにも、インクの性質(粘度や乾きやすさ)や、ペン芯の性能によっても条件は左右されます。
特にペン芯は、ぼた落ちしないという前提で、ペン芯がペン先に必要量以上のインクを常に送り届ける効果である「追い風効果」に富むほうが理想的ですが、これはペン芯の設計段階の話で、事後的なペン芯の改善(出来上がった状態のペン芯部品を追加工して改善するようなこと)は不可能です。

ひねり許容性の対処方法

改善策としては、形状が図Eのようになっているペン先は、インク出を少し絞って図Hのようにする方法や、先端を見て判別できない程度のごく少量先端を削って図Gに近くすることが方法があります。逆にインク出を増やすことにより対処できる場合もあります。また、図Dのように角が当たっているところがあればそこを修正します。削るといっても、必要最小限の見た目でほとんどわからない位の量です。歯のかみ合わせ調整と同じようなもので、削る量は極小だが、効果は絶大と言った感じでしょうか。
パイロットでも、書き出しかすれの修正依頼は、お客様の筆記姿勢を2方向から写した写真を添付することが望ましいとされています。
ある一定角度で平らにすれば、その角度では条件は良いですが、他の角度ではDの現象が起きますので、ある角度で平面をつくるようなことはしないほうがよく、いくらお客様がその角度で書くと言っても、ある一定角度で平らに研ぎおろすなど、もってのほかです。

ペン先は必ずしも書き手がペン先に合わせる必要はありませんが、ペン先に合った持ち方が可能ならば、持ち方・紙へのペン先の当て方を工夫して頂くことにより改善されることがあります。
ひねり許容性については、メーカー出荷状態でも起きることがあります。当店では、お客様のご使用状況をお伺いし、ベストな方法で改善させて頂きます。
第一次的には削らずに対処しておりますが、最終的には、ごくごくわずか削ることによって対処することも多いです。