masahiro万年筆製作所製品各パーツのこだわり箇所について紹介しております。
理想の万年筆を追求した結果、なぜ現在の形状に至ったのか、など、ご案内いたします。
以下のような箇所に気を配って設計製作しております。
部品名称についてはこちらをご参照ください。

キャップとその周辺

キャップ

キャップは独特な円錐状の形状となっており、先端にはクリップが装着されます。

キャップ形状

キャップ形状は、デザイン面、キャップを軸後ろに装着して筆記するときのバランスを両立させ、先端が少し細い円錐状の形状です。入り口は緩やかなカーブを形成しております。

クリップ取り付け部分

クリップは、キャップに開けられた四角い穴から装着固定されます。
クリップ取付部分は、ペン先から蒸発したインクにはさらされることなく、完全に独立し、シールされた構造になっています。
クリップはキャップ内にステンレス製の特殊取付ねじで取付けます。
取付ねじのメスねじは、キャップ内部に装着されたメスねじに入ります。このメスねじは、エボナイトにそのままねじを切ったねじに入るのでは無く、キャップ内部に装着された、金属のメスねじであるインサートナットが装着されます。
エボナイトにそのままねじを切ったメスねじにねじ込む場合、ねじを強く締め付けることはできません。
インサートナットにねじを取り付けるため、金属同士のねじを締め付ける強さで強く安全に締め付けることができます。

二重キャップ構造

キャップ内部には、以下のような、精密に切削された段差が設けられており、キャップを閉じたとき首の平面と接触することにより、完全に気密を保ちます。

首先端から先のペン先部分のみを乾きから守るので、二重キャップ構造になっております。
段差を形成することにより段を設けていますが、同様の構造を、キャップ内部に筒を入れることで達成することもでき、メーカー品では、この方法を採用しているメーカーも多いです。

この筒のことを、「ナカゴ」または「インナーキャップ」と呼びます。

M形吸入方式では、後部つまみを閉めると軸内からのインクの供給は遮断されるため、キャップで乾燥を防止するインクはペン芯に付着しているインクのみとなります。
このため、常にインクタンクのインクがペン芯に供給されている他の方式よりも、ペン先乾燥に対しては、とても過酷な条件下といえます。
このうえ、現行のパイロットブルーブラックインクのように、インクが空気に長くさらされて濃くなったような状態で筆記すると筆跡がにじむようなインクもありますので、キャップの気密性は必須です。

段差の役割

段差は、首先端と接触することにより、キャップ気密をつかさどるほか、キャップ回転数を決する重要な部分です。気密はキャップ内部の段差と首の先端を精密に切削することで実現しています。エボナイトの接触圧のみで完全に気密を保っております。
キャップを閉め終わったときにピタッと止まりますが、止まるところはねじとねじの終端ではなく、首の端面とキャップ内の段差です。この両者の平面接触の接触具合を吟味した結果、キャップと軸のねじがゆるみにくい仕組みになっております。
段差があるため、段差より奥に首が入り込むことはありません。このため、仮に首をゆるめたままキャップをしてしまった場合、段差が無いとキャップ天井にペン先が当たってしまう恐れがありますが、段差があればペン先が当たることは無く、通常より少ない回転でキャップが閉じるだけです。段差は、キャップにとって必須の安全構造でもあるのです。

段差とナカゴの違い

二重キャップ構造にするには、キャップと一体構造、すなわち、キャップ内部に段差を設ける方法と、ナカゴ(インナーキャップ)を入れる方法があります。
ナカゴの場合、固定式と可動式があります。
可動式ナカゴは、キャップ内において、バネの圧力で押さえつけて気密を保つ設計です。水性ボールペンのキャップに古くから用いられていましたが、現在では、万年筆まで幅広いキャップに見られます。
当店の商品は、ナカゴではなくキャップ内部に段差形成することによって実現しておりますが、段差とナカゴではどのような違いがあるでしょうか。
段差は、製作難易度が高いというデメリットはありますが、一体構造という安心感があります。適切に作られていれば、キャップ閉め終わり感が安定し、キャップ内部の洗浄にも気を遣う必要がなく、直接水を注いで洗って頂いても問題ありません。
ナカゴは、キャップとは違う素材で作ることができるので、キャップ締め終わり感が異なる感じにすることができます。たとえば、パイロットでもカスタム74と743のキャップ締め終わり感が異なるのは、ナカゴの材質が違うからです。
段を設ける必要が無いことから、キャップ内部の製作も容易です。
ナカゴの欠点は、キャップ内部とナカゴとの間にインクが入り込んだりすることです。キャップが透明でなければ外からは見えませんので気になりませんが、透明の場合、インクが入り込んだ様子はすぐに見えてしまいます。また、可動式の場合、稼働するための隙間が必要なので、インクは入りやすいです。設計によっては、キャップを閉じるとき、ナカゴを可動させるためのバネが押されるとき、音がすることもあります。
ナカゴが入っている透明なキャップの内部を洗うのは少し気を遣います。キャップの中に直接水を流し込んで洗うようなことはしない方が良いです。
以下の画像のようにナカゴとキャップの間に入ったインクは、キャップを分解しないと取れません。

キャップの中にインクが出ることがなければ、キャップ内は汚れませんので、透明なキャップの商品でも、全く汚れずにお使い頂くことも出来ないわけではありません。
ナカゴや段差がないキャップも多いです。
特に、以下画像のような、軸自体に段差がある商品では、軸自体の段差でナカゴをナカゴや段差は無く、軸の段差に当たることで、キャップが締め終わりとなります。
※画像は当店の試作品です。

軸に段差がある商品は、キャップの気密を保つのが難しいので、可動式のナカゴを採用する方法が一つの案として考えられるわけです。

軸と装着される4条ねじ

内側には、軸と装着されるねじ(4条ねじ)が切られております。
ほぼ1回転でキャップが外れるような設計となっております。
ねじの山のかみ合いも深いため、キャップを強めに閉めて頂いても傷むことがないように製作してあります。
キャップのねじに使われている「多条ねじ」について

キャップ内部4条ねじの見た目を向上させる

キャップ内側のねじ切削作業は外側からは見えない作業となり、切る長さも、必要な長さ以上に切られることが多いです。以下の画像のように、ねじの手前の入口部分にもねじ山が切られてしまうことも多く、これは見た目にきれいとは言えません。

キャップ内のメスねじの長さが異様に長くなるのは、マラソンの助走のように、ロクロ手作業でねじを切るときに、ある程度の長さ切る必要があるからです。
当店でもごく初期は、キャップ内部に長いねじ痕跡が残るような切り方をしておりました。従来からの切り方を踏襲すると、このようなねじになってしまうとはいえ、見た目にどうしても納得できませんでした。

戦前のエボナイト万年筆全盛期、キャップ内のねじは、ねじ切り刃物で切られていました。
一方で、パイロットなどは、キャップ内部のねじはねじ切り工具のタップを用いるものもありました。
タップは、ドリルのように内部に入れるだけでねじが切られる工具ですが、キャップの中に使われる4条ねじのタップは市販では無いため、特注で用意するしかありませんし、当時も同様であったはずです。
タップで切ることが出来れば能率が向上します。そのほかに特徴的なのは、タップで切られたねじは、ねじの切られた長さと切り終わりがピッタリ揃います。
ロクロで切られたねじか、タップで切られたねじかは、キャップ内部に切られたねじの長さで容易にわかります。長さが異様に長くなく、切り終わりが揃っていれば、タップです。切られた長さが必要以上に長く、切り終わりが揃っていない、このような点が見られれば、ロクロによってねじ切り刃物などで切られたものと判断できます。
タップの場合、ねじの切削精度をコントロールすることはできませんが、ロクロによる作業では、微妙なところをコントロールできます。

そこで、ロクロによる作業でも、タップで切ったねじのように、4条ねじの長さを適切に、切り終わりも均等に切削することを試みました。
ロクロの操作方法と、ねじ切り刃物を工夫することで、以下の画像のように、キャップ内部を覗いて頂いて、見た目に全く違和感の無いねじを切ることが実現しました。

以下のような、軸内部が透けて見える素材でも、内部に切られたねじが見た目に違和感ありません。

クリップ

形状を考え抜いた、小型で使いやすい、完全なオリジナル ハンドメイドクリップです。

クリップも自社で製造しております。
先端に球を装着し、布を挟むときも布地を傷めないようなオーソドックスな形状を踏襲しております。
クリップ本体の材質は、戦前から真鍮が多用されておりました。
クリップは、90度折れまがった部分が一番弱く、真鍮の場合は、古い商品で、応力腐食割れ(時季割れ)現象により破断してしまうものが多くあります。また、真鍮はバネ性があまり良くないため、少し厚めのものを挟んだりすると、簡単に開いてしまったりすることがあります。
このようなことがないよう、素材は吟味しており、クリップに適した特殊銅合金を採用しておりますので容易に開くことは無いです。
表面は、金メッキを得意とするメッキ専門工場にて、硬質金メッキ(厚金メッキ)を施しております。

キャップのクリップ取付部分は、蒸発されたインクの水分にさらされるキャップ内部から完全に独立しており、完全にシーリングされています。キャップ内部の気密性を損なうことはありません。
キャップの入口から口で空気を送って、クリップ周辺から空気が漏れる通気性が無いことで、気密を簡単にご確認頂けます。

首とその周辺

首は、軸に装着され、ペン先ペン芯が取り付けられる部品です。
軸と接合するねじは、細かいピッチの1条ねじが切られ、軸に対して、ゆるむことなくきっちりと装着されます。軸のねじも首のねじもエボナイトなので、しっかりと固定されます。
首の先端は、精密に切削された平面となっており、平面から内側のスリーブ付け根までは、ノウハウに基づいた独特の円錐形状となっております。この円錐形状は大事な部分であり、この辺の形状は、キャップの気密などに関わる重要な部分で、試作を繰り返し、良い形状にたどり着きました。
首には、ペン先とペン芯が入る筒であるスリーブが装着され、このスリーブの中にペン先とペン芯が入ります。

首先端はキャップ内の段差と接触

首の先端は、キャップ内部に設けられた精密に切削された段差と接触します。キャップを閉じたとき首の平面と接触することにより、完全に気密を保ちます。
この結果、首をゆるめた状態でキャップを閉めてしまっても、キャップ内の段差以上に首が深く入ることはないため、ペン先がキャップ天井に当たってペン先を傷めるというようなことはありません。

M形吸入方式の首

M形吸入方式の場合、首の後ろ側端面中心には、軸内部からのインクや空気圧を遮断する気密部が設けられております。後部つまみを締めると、後部つまみに装着された中芯の先端にある弁が首後ろの気密部と接触し、パッキンなどを使わず、すりあわせのみで、使用しない時に軸内部の気密を保ちます。
軸との接合部分は、軸内部のインクが漏れることが無いよう、完全に気密が保たれております。パッキンがなどを配置しなくても完全に気密を保つことが出来るよう、削り合わせのみで、完璧な気密を保っております。パッキンのみならず、首のねじ自体にシーリング材やグリスなどは一切塗布されておりませんし、塗布する必要もないため、首はねじを緩めて脱着できます。
もし、首を緩めることが出来ないような仕組みでしたら、ねじに配管シールテープを巻くようなイメージで、漏れを防ぐ方法もあるでしょう。しかし、首をスムーズに緩めることができる状態を保つには、ぴったりと削り合わせる技法が一番です。また、パッキンが配置されていると、閉め終わりにパッキンを押さえる抵抗が掛かりますが、パッキンがないため、閉め終わりがピタッと、極めてスムーズです。
M形吸入方式でも、首を緩めてスポイトでインクを入れて頂く事も可能です。
パッキンを使わずに気密を保たせる方法は、伝統的な手法で、パイロット製品も戦前の商品は当然のごとくこのような方法で製作されていました。この削り合わせ技術は、ロクロハンドメイド作業の妙と言えます。
首と軸との気密を切削で実現する手法は、良質なパッキンが無かった頃の古い技術かもしれませんが、適切に加工する技術があれば、現代でも十分通用する、完璧な手法です。
パッキンを使わずに漏れを防ぐ技術は伝統的にも十分な効果があることが実証された手法ですし、当店では削り合わされて気密が保たれている水密箇所の完成状態を目視し、圧力を掛けてテストしておりますので、安心してご使用下さい。

スリーブ

首にはペン先とペン芯が入る筒であるスリーブが装着され、このスリーブの中にペン先とペン芯が入ります。
スリーブ外径と、ペン先ペン芯が入る内径とは十分な厚みを持たせてあります。スリーブ外径と首内径は一定のクリアランス隙間が設けられており、両者はねじで固く接合されます。スリーブと首のねじ接合部分は、前述の首と軸との気密を保つ方法と同様の手法により、切削で気密が保たれています。
首内径に直接ペン先ペン芯が入る穴を設けず、スリーブを介することにより、ペン先の圧入力がスリーブのみに掛かり、首素材には掛かりません。このため、特殊樹脂のような素材(エボナイトのような拡張力に耐える素材ではない素材)であっても、強い力でペン先ペン芯を固定することができ、首素材には拡張力が加わることはありません。
ペン先の取付け取り外しも、当店で行う限り、取付固定力が弱まること無く作業が可能です。
また、必要になることはほとんどありませんが、スリーブを交換することにより、首には一切手を加えることなく、ペン先ペン芯が入るペン穴の補修が可能です。
スリーブと首とのねじとは、通常はゆるむことのないよう、しっかりと固定されています。そのため、お客様のお手元で緩めることはできません。

ペン芯


当店で製造するすべての万年筆は自社製エボナイトペン芯が装着されております。
万年筆を構成する部品の中で、一番重要な部品はペン芯です。ペン先以上に重要な部品となります。
ペン芯の実態はあまり知られておらず、実際に機能する姿もわかりにくい、万年筆のパーツの中では難易度が高い部品の一つです。
エボナイトで製作する効果が絶大に発揮される部品がペン芯なのです。
エボナイトペン芯のメリットは、エボナイトでこそ実現出来る強度と、インク伝達性能にあります。
このペン芯をエボナイト製で、吸入方式に見合った形状にて、自社生産しております。
インクが伝わる重要な縦溝は、現代のパイロットのプラスチックペン芯(以下の左画像)と同等の幅で、深く溝切っています。以下の右画像は当店のペン芯溝幅です。

ペン先の丸穴からは、ペン芯溝がこのように見えます。

ペン芯を自社製造できるようになるまで、かなりの期間が掛かり、一定期間ペン芯の開発に没頭したものです。
より良い性能にするために、ものすごい数の試作を繰り返し、現在の仕様に至ったものの、安定した流動性能に達することは、非常に難易度が高かったです。
吸入方式に適合した形状のペン芯を製造し装着することにより、M形吸入方式が実現しました。
インク供給方式に見合った形状でペン芯が製作できます。

エボナイトならではの強度

軸に装着されたペン先とペン芯がずれることがないような取付強度を誇ります。
ペン先とペン芯がずれると、ペン先先端の形状も変形し、書き味やインク出が変化してしまうため、絶対にずれない取付強度が理想です。

エボナイトならではのインク伝達性能

インク伝達性能も、インクによくなじむエボナイトならではの性能が発揮されます。
古くからペン芯はエボナイトで製作されており、現在でも、ごくわずかのメーカーはエボナイトでペン芯を製作しております。
プラスチックの成形で作ったペン芯のほうが、コスト面で圧倒的に有利なため、エボナイト製のペン芯はほとんど見られなくなってしまいました。
プラスチック製のペン芯でも、表面処理等により、水分なじむ性能を持たせた良質なものも多いので、プラスチックはペン芯素材としてエボナイト製に劣るものではありません。
当店ではエボナイトならではの良さを見いだし、エボナイトで自社生産しております。
エボナイトのペン芯も、プラスチックのペン芯も、素材自体がインクの味を覚えるというようなことはないため、完全に洗浄して頂いて構いません。適切に作られたペン芯でしたら、一度インクが通れば以降は間断なくインクは流れます。

インク供給方式に応じた形状で設計

ペン芯を軸に合わせて製作しないと、M形吸入方式のような万年筆は、インクの流れが滞ってしまいます。
戦前日本で主流だったインキ止式万年筆は、インクを止める部分が峠となり、後部つまみを緩めただけではインクが出ず、軸を振ったり、後部つまみを引き押しして押し出すようにして使うと言われていた位でした。ペン芯がボトルネックとなって、出が持続しなかったわけです。
軸を振りながら使うということから、美術館では、万年筆使用禁止となっていたようです。
戦前では、インキ止式のインクが途切れることに不自由を感じていた方は、テコ式と呼ばれた、軸の中に入ったゴムチューブをレバーで押してインクを吸入する方式を選択していました。
このように、インクの出が持続しないことから、インキ止式のイメージを悪くしてしまい、現在でもこの方式に対する不信感をお持ちの方が多いのも事実です。
当時でも大手メーカーでは、軸からペン芯まで一貫して設計して製作することが出来ました。そのようなメーカーのインキ止式軸は後部つまみさえ緩めればインクの出が持続しました。
一方で、小規模なメーカーでは、軸は軸製作者、ペン芯はペン芯メーカーと、別々のところで作られていたことなどから、大手メーカーのような商品の実現は困難でした。
現在でも、カートリッジ用のペン芯で吸入タイプが製作されることが多いです。
当店では、M形吸入方式やC2タイプといった、インク供給方式に特化したペン芯を開発し、独自開発の流量試験機でテストすることによってインクの流れがスムーズなペン芯を自社生産しております。
M形吸入方式万年筆でも、以下の画像のように、首最後部までペン芯が到達しているため、後部つまみをゆるめれば、インクが最後の1滴まで、間断なく流出します。

プラスチックペン芯と同等の設計

エボナイトペン芯の場合、首内部に隠れた部分には横溝が切られてないものが多かったり、そもそも設計が簡素なものが少なくありませんでした。
当店のエボナイトペン芯は、現代のプラスチックペン芯と同等の設計となっております。

ペン芯後ろに切られた横溝は、隠れた首内部にも適切に切られており、横溝幅は、先端に行くほど広いです。横溝幅が変化していることは、ペン芯の必須条件です。
パイロットペン先仕様の場合、パイロットのペン先は、根元の部分が、画像のように折れ曲がっており、プラスチックの純正ペン芯と適切に装着出来るようになっております。

当店のペン芯も、ペン先に合わせた設計となっております。
以下の画像のように、パイロットペン先に合うよう、ペン芯に加工が施されており、ペン先を適切に取り付けることが出来るようになっています。

アニーリング

ペン芯に温度を加え、ペン芯とペン先を合わせる作業を「アニーリング」と称しています。
このアニーリングが緻密に可能なこともエボナイトでペン芯を作るメリットの一つです。
プラスチックペン芯でもメーカーでペン先に合わせたアニーリングは必ず行われますが、エボナイトペン芯と比べ、加える温度などが異なります。
個別のペン先ごとにアニーリングされたペン芯は他のペン先には合わないことが多いです。ペン先ごとに組と適切なアニーリングが出来る環境でないと、ペン芯の交換は出来ません。
エボナイトペン芯のアニーリングに変わる手法として、ペン芯に切り込みを入れて、たわみやすいようにする方法もあります。このように作られたペン芯は、ペン芯の斜めにカットされた平面部と側面に切り込みが残ってしまいますし、緻密な合わせ作業は向きません。

20周年に際して

2019年、創業20周年を期に、ペン芯設計を見直し、外径等大幅に変更致しました。
基本的な性能は変わりませんが、メンテナンス性や、取付部分の構造が大きく向上致しました。
また、ヨーロッパタイプカートリッジのペン芯は最後部が極端に細いため、設計製作が非常に難しいのですが、理想的な性能で自社製造が実現し、C2タイプと称するヨーロッパタイプのカートリッジ・コンバータータイプの万年筆を製作することができるようになりました。詳細はC2タイプ万年筆の商品ページをご覧下さい。

軸本体とその周辺

軸本体

軸先端にはキャップと装着されるねじ(4条ねじ)が切られ、軸に段差がありません。
ねじは足動のロクロで精密に切削します。
軸表面に段差がないため、軸のデザインはスムーズな直線となります。軸を保持したときに、段差が指先で気になることもありません。
軸先端は首が装着され、首と軸のつなぎ目は、精密に削り合わされて、パッキンを使わずに気密を保たせてあります。
キャップのねじに使われている「多条ねじ」について

軸に切られたキャップと接合する4条ねじ

4条ねじの切り終わり終端は、円周上に揃い、見た目に違和感ありません。
切り終わりの見た目はとても気を配って切削しております。
切り終わりは切り上げといい、切る深さを加減しながら切るため、見た目にきれいに切るのは割と難しいです。

このため、ねじの切り終わりに逃げ溝と呼ばれる溝を入れて、切削を容易にする手法もありますが、当店の商品は逃げ溝は一切入れていません。

振れのない正確なねじを切削

キャップと軸の4条ねじは、振れのない正確なねじを切るように努めております。振れのない正確な4条ねじを切るのは、一連の作業の中で、もっとも難易度が高い作業です。
このキャップと軸がかみ合うネジの精密さは、手で軸を回した位ではわかりにくいですが、キャップを軸に装着してネジこんで、軸を機械に把握して回転させると簡単にわかります。
4条ねじの場合は、4パターンのねじのかみ合わせがありますので、4パターンすべてにおいて確実な精度を保たねばなりません。
精密に切られたものは、軸に対してキャップがブレて回ることがありません。
詳細は、加工技術についてをご覧下さい。

筆記時、軸後部へキャップを装着

適切に設計された万年筆は、キャップが軸後ろに装着できる設計になっています。
当店の商品も、軸の後ろにキャップが装着出来るようになっております。
装着するとき、キャップ内部と軸後部が2点で接触させることにより、キャップがガタつくことが無いように、筆記時容易に外れることがないように形状を形成しております。
軸を設計する上で、軸後部へキャップが装着できることは、個別のお客様がキャップを後ろに装着するしないにかかわらず、必須の条件と考えております。

M形吸入方式の特記事項

かつてのインキ止式商品は、筆記時、後ろにキャップを装着するとき、後部つまみにキャップを装着するものが大半でした。
筆記時に後部つまみをゆるめた状態で使用するため、後部つまみにキャップを装着すると、ねじがゆるめられた状態の後部つまみにキャップを装着することになります。
ねじがゆるめられている後部つまみにキャップを装着すると言うことは、ガタつく印象が拭えませんし、後部つまみをゆるめる量によって、キャップを後ろに装着したときの全長が変わってしまいます。
そこで、M形吸入方式の場合、後部つまみの設計を吟味することにより、キャップを後ろにはめるとき、後部つまみではなく、軸本体に装着する設計となっています。
後部つまみを緩めた状態でキャップを軸後ろに装着しても、全長は変わりません。

前ねじの良否

万年筆、特にハンドメイド万年筆の設計として、首の一番先端にキャップと装着されるねじを切る方法があります。この位置に切られたねじを「前ねじ」などと言われることがあり、以下のような、100年ほど前の、ペン先が軸内部から出入りするような「繰り出し」といわれる万年筆の軸に見られます。

画像では、ねじとペン先との間にねじが切られていない部分がありますが、もっと先端までねじが切られていることもあります。
繰り出し万年筆以外でも、前ねじで作ると、製作する上では、ねじを切るのが容易、ご使用の上では、軸の保持位置にねじがなく、手にねじが当たらない、というようなメリットもあります。
デメリットとしては、インクを瓶から吸入して吸う方式の場合、瓶に漬ける首先端にねじがあるため、ねじの谷にインクが入り込み、入り込んだインクを拭きづらいということが挙げられます。
最大のデメリットは、C2タイプのような、首をゆるめてカートリッジやコンバーターを装着する商品の場合、キャップを開閉するときに、首が軸から外れ、キャップの中に残ってしまい、外れなくなることです。
前ねじタイプは、オスねじを切るのが容易になるというメリットはありますが、使い勝手の面でデメリットが多いため、現代では消滅した繰り出しタイプのような、特殊な方式のみに採用されるべき古典的設計です。

後部つまみ(M形吸入方式のみ)

M形吸入方式の場合、後部つまみが軸後部にあります。
軸本体と後部つまみとは、ピッチ0.5ミリ、リード1.0ミリの2条ねじが切られています。
見た目は細かいですが、少ない回転でねじを緩めることが出来ます。
後部つまみと軸との接合部分は、精密に削り合わされ、後部つまみから軸内部に異物が入り込むことのないよう、全閉構造となっています。
標準的なスタイルの商品の場合、後部つまみにはキャップが装着されません。筆記時、後部つまみはゆるめたまま使用されるため、緩めた状態の後部つまみに装着するような構造ですと、緩めた分だけキャップを後ろに着けた状態での全長が長くなりますし、ねじを緩めた状態の後部つまみに装着するとなると、ゆるんだ状態で装着しぐらつく可能性があります(ただし、かみ合いの深い緻密なねじを切れば、緩めた状態でもがたつくことはあまりありません)。
後部つまみには中芯が取付けられます。後部つまみ内部には、中芯自動調整機構が組み込まれており、自動調整機構は、ねじで密封されています。

中芯(M形吸入方式のみ)

後部つまみの中心には中芯が装着されます。中芯は軸内部のパッキンに保持されて往復運動されます。
中芯は、ステンレス製で、通常のステンレスよりも腐食に耐える、ステンレス製ペン先などにも採用されている高品質なステンレスを使用しております。
ステンレス製の中芯を装着することにより、軸の質量感も適度な重さとなります。ステンレス製中芯が軸内の適正な位置に配置されているため、筆記時のバランスも良好です。
後部つまみ内部、中芯と後部つまみの間には、自動調整機構が組み込まれております。
ステンレスとエボナイトとの膨張係数が異なるため、温度変化で両者の長さは変わりますが、自動調整機構で膨張係数の差を完璧に吸収できるようになっています。

中芯と軸の間のパッキン

M形吸入方式の場合、軸内部には、中芯とのパッキンが配置されます。従来、中芯と軸とのパッキンはコルクが使用されました。コルクも入れ方を工夫すれば、結構長く気密を保つことが出来ます。しかし、コルクにカビが生えたり、数年から長くて10年で気密が低下して交換の必要出てしまいます。このようなコルク方式は全廃致しました。
パッキンを採用する場合、潤滑が重要で、パッキンの潤滑が行き渡らないと、パッキンの表面を消しゴムのようにかじってしまいます。
単純にコルクをパッキンに置き換えるだけでは耐久性の高いスムーズな動作は望めません。
M形吸入方式万年筆は、吸入時の後部つまみを引き出し引き戻しをすれば自動的に中芯に潤滑が行き渡る構造になっています。
その上、パッキンは、自己潤滑性がある特殊なパッキンを使用しております。
実際は、自動潤滑作用のみで十分な動作が実現されており、汎用性のあるパッキンでも対応できるようになっております。
この結果、将来的に特殊なパッキンが入手出来なくなっても、汎用性のあるパッキンで修理が可能です。
なお、パッキンは相当な耐久性があり、10年以上の耐久性があり、実際当店のテスト品も10年以上動作しています。
パッキンと軸は、スリーブと同様、新しい構造の水道蛇口にヒントを得た、軸自体に力が掛からない取付構造となっております。これにより、エボナイト以外の特殊樹脂でもM形吸入方式を実現出来るようになりました。

吸入機構構成部品(M形吸入方式のみ)

中芯には、エボナイトで製作された、M形吸入方式独自の吸入機構を構成する部品が装着されます。
ゴム製吸入ゴムや吸入ピストンのような劣化する消耗部品がありません。
このインク吸入に必要な部品は、インクの入る軸内部に配置されており、インクが吸入メカニズム機構から漏れるといったような心配はありません。吸入機構は潤滑不要です。
中芯が軸内を往復する体積分を吸入動作に応用しております。吸入ピストンのような吸入部品が動くことによる気密を利用した吸入方式ではないため、ピストンと内壁の気密低下といったような問題影響は起きません。
M形吸入方式吸入メカニズムについて

各部品 共通事項

各パーツ角の部分は、適切に面取り加工されています。
ねじは、オスねじ外径・メスねじ内径を適切に計算し切られているため、強く閉めて頂いても問題ありません。
ねじを強く閉めたら、閉め終わりで「バチッ」とゆるむことがありますが、当店のねじはこのようなことはありません。
スムーズな開閉感が体感できる緻密なねじとなっております。

お手元での精度確認方法

気密確認方法

以下のテストで、様々なことがテストでき、総合完成度を確認できます。

masahiro万年筆製作所製品は、完成時、内部にかなりの内圧を掛けて気密テストをしております。後部つまみを閉めれば、軸内部から空気圧すら漏らさないことを確認しております。
また、キャップも、すりあわせ削り合わせ技術のみで、非常に気密が高いキャップに仕上がっております。この加工精度を、軸から聞こえる「音」で確認する方法があります。
音のみですべてがわかります。後述の各部分一つでも製作基準を満たさないと、音はしません。

テスト方法

テスト方法は以下の通りです。
なお、お手元で定期的に行う必要はありません。ひとつの方法としてご紹介するのみです。
また、以下のテスト方法は、C2タイプや、(他社の)プランジャー式ではご確認いただけません。確認はできませんが、masahiro万年筆製作所のC2タイプも、キャップの製作精度は、M形吸入方式万年筆と同じ水準です。

1,軸内部にインクまたは水を入れて下さい。
インクの量は、半分くらいの方が確認しやすいです。空気音によるテストのため、インクが満タンの全く空気がない状態ですと確認できませんし、インクが全く入っていない状態でも確認できません。

2,後部つまみを少しだけゆるめて、再び閉めて下さい。引き出す必要はありません。
後部つまみを閉めるとき、ねじが閉め終わる寸前で、カクッとする感触はありますでしょうか。感触がわかりにくい場合は、首をゆるめた状態で後部つまみを閉めたときと比較して頂くとわかりやすいです。
首をゆるめた状態では、後部つまみを締め込んでもカクッとする感触は出ません。
このカクッという感触は、中芯自動調整機構の弁の接触厚を確保する「締め代(シメシロ)」になります。後部つまみの中には、自動調整するための機構が組み込まれております。
カクッと言う感触で、自動調整機構が確保されているか確認できます。

3,軸を横にしたりペン先を下にしたりして、軸内の液体を流動させてから、キャップを装着してください。キャップのねじは最後まで締めきらずに、少しキャップをゆるめた状態にしてください。
軸内の液体を流動させて頂くのは、首後部に確実に液体を付着させて頂くためです。このテストは、軸の中の首後部と中芯弁が当たる部分の空気音で確認する方法のため、液膜がないと音が発生できないからです。

4,3のキャップを軽く装着した状態のまま、ペン先を上にして、後部つまみをすべて引き出して下さい。

5,4の状態のまま、キャップを閉めて下さい。

6,後部つまみを戻し、後部つまみをすべてねじ込んで下さい。
必ずペン先を上にした状態で行ってください。ペン先を下にした状態で後部つまみを戻すと、ペン先からインクが出てしまうことがあります。

7,キャップを外して、首と軸のつなぎ目からインクが漏れていないかを確認してみて下さい。
漏れていた場合は、首の軸へのねじ込みが緩い場合がほとんどです。
特に後部つまみをゆるめないで首を装着した場合、首の軸へのねじ込みが緩くなってしまいます。
この段階でインクの漏れが無く、以下の8でも音がすれば、首と軸との気密は確保できています。

 

8,ペン先を上にして、ペン先の当たりに耳を近づけて、後部つまみをゆるめてみてください。
後部つまみがゆるまった瞬間に、「じゅっ」という空気の音がすれば正常です。
ゆるめるときに、首からインクが弾くように出ることがありますのでご注意下さい。
音の有無で、以下がテストできます。
気密を保つことが出来るキャップか。
2の自動調整機構が確実に働いているか。
後部つまみを閉めることで軸内部からインクや空気圧を遮断できているか。

6で後部つまみを戻したとき、5でキャップを閉めているので、キャップの気密が高ければ、軸内の圧力が逃げるところがなく、軸内の圧力が中芯の体積分高くなります。その圧力が逃げる音が8で聞けるというわけです。
キャップを閉めていない状態で、後部つまみを往復させる「引き戻し動作」と同じ動作を行っても、ペン先周りから軸内の圧力は逃げますので、8のような音はしません。
キャップを閉めていない状態で後部つまみを往復させる動作は、「引き戻し動作」と同じ動作になるわけです。

上記テストは、キャップの気密(正確にはキャップ内部が接触する首先端と、キャップと軸のねじ精度)がしっかりしていることが前提になります。キャップの気密が悪いと、他はテストできません。

M形吸入方式は、軸内部の吸入機構により、気密をしっかり保つための加工が、母体となる単なるインキ止式と比べて、非常に難しく、加工上の難所となっておりました。
この気密を保つ解決策を見いだすことができ、商品化が実現した次第です。

気密を実現するためには、
●キャップと軸の4条ねじを精密に切る
●クリップ周りの取付とシーリングを適切に行う
ということが大切です。
キャップと軸の4条ねじがまっすぐに切られていないと、キャップ内の段差と首端面との接触が悪くなってしまう原因となります。
クリップ周りのシーリングは、キャップの入り口を口にくわえて息を吹き込んで通気性があるかないかで、かんたんにテストできます。

軸後部にキャップを装着するときに体感出来る精密さ

軸後部に、軽くキャップをかぶせ、外すということを繰り返すと、軸後部がキャップ内部を出入りするときに、フワフワと空気が抵抗となる感触にお気づきになるかもしれません。
うまく行えば、この感触をご体感頂けます。
軸後部がキャップ内部の2点で接触されて固定する構造から、軽くかぶせるときに、キャップ内部の空気が軸との接触部分から逃げて、エアダンパーのような空気の抵抗をごくごくわずか感じることが出来ます。
特にR形形状の軸で体感しやすいですが、わかりにくいかもしれません。
キャップと軸後部の形状が適切に製作されないと、この空気の抵抗は絶対に出ません。