当店では、エボナイト素材を使用して、ペン芯などの部品や、軸素材を製造しております。
エボナイトは、現在のプラスチックが主流になる前から存在した素材です。古い素材ですが、素材特性は、現代のプラスチックにはない良さが多くあります。
昔は多くの種類のプラスチックがなく、エボナイトくらいしか無かったわけですが、現代で発明されたとしたら、スーパー素材ともてはやされたかもしれないくらい、特徴のある素材です。
しかし、現在では、日常手にする機会は一切無く、素材についても正確なところがあまり知られていないため、エボナイトについて詳細をご説明させて頂きます。
このページはボリュームがあるので、目次から必要なところのみを拾い読みして頂くことをおすすめします。

目次(クリックで飛べます)

エボナイトとは

エボナイトは、簡単に定義すると、生ゴムに硫黄を加えて作られた硬質のゴムです。
英語での表記は、[ebonite]です。 作られ方を英語で言うと、Made Fromです。
より専門的には、ゴムを高架橋した高硬度なゴムと言うことになります。
エボナイトをたった一言で定義するならば、「ゴム」です。「輪ゴムの兄弟」とも言えます。
エボナイトのことを硬質ゴムと言われることもあります。
ゴムには天然ゴムと合成ゴムがあり、硬い硬質のゴムの中でも、天然ゴムを後述の架橋反応させて硬くしたものを「エボナイト」と称しています。
エボナイトの硬さは硬質ゴムというよりは、「超硬質ゴム」というべき素材ですが、一般的には硬質ゴムに分類されています。
大まかに説明しますと、以下の表のようになります。

天然ゴム 合成ゴム
軟質ゴム 硬質ゴム
このページで
解説している
エボナイト
軟質ゴム 硬質ゴム
用途
タイヤ・
輪ゴムなど
用途
万年筆素材・
楽器喫煙具
のマウスピース
など
用途
パッキン・
タイヤなど
用途
靴底・
防振用途など

エボナイトはプラスチック(合成樹脂)ではありません。ゴムなのです。プラスチックは、合成高分子化合物と定義され、エボナイトとは似て非なる物質です。
エボナイトはゴムですが、一般的に想像するゴムとは違って、極めて高い耐久性と、素材形状安定性があります。精密に作った寸法が変化することがないのです。

エボナイトの語源

エボナイトの語源は、黒檀のエボニーから来ています。
確かに黒檀はエボナイト似た真っ黒な色をしています。しかし、黒檀は木材なので、表面に木目があります。エボナイトは、平滑なので、見た目に全く違います。
エボナイトが発明される前は、エボナイトに相当する素材が無かったため、仕方なく黒檀のような木材や印鑑のような動物の角で筆記具を製作していた時代もあるようです。
初期の万年筆は、軸自体にインクを入れており、現在のようにカートリッジやコンバーターに入れるタイプでは無かったため、木材や動物の角では用をなしませんでした。
エボナイトが発明され利用されるようになってからは、その圧倒的な素材優位性から、万年筆には専らエボナイトが使用されるようになりました。

プラスチックの総称として使用される「エボナイト」という名称

特にご年配の方が、黒いプラスチックのことを、エボナイトと総称されることがあります。
製造現場では、依頼者がエボナイトと言っていても、本当にエボナイトでよいのか、入念な確認が必要です。
確かに、黒いエボナイトも黒いプラスチックも黒い色の素材であり、セルロイドのように素材自体の見た目で明確に区別できる素材ではないので、一般的なプラスチックと見分けがつかないかもしれません。
しかし、実際においては、現代においてエボナイトはほとんど手にする機会はありませんし、エボナイトで製造されたものも身近には全くありませんので、エボナイトと称していても、純粋なエボナイトのことを指しているわけではないことのほうが多いです。

エボナイトの発明

1852年に現在もタイヤメーカー名として有名な会社と同じ名の、グッドイヤーが発明しました。
グッドイヤー個人とタイヤメーカーのグッドイヤー社とは、直接の関係はないとのことです。

万年筆素材としても使われてきたセルロイドは1869年に発明されました。
エボナイトが最も古い合成樹脂といわれることがありますが、エボナイトは合成樹脂ではありません。
最初に発明された合成樹脂は1907年にアメリカのL.H.ベークランドが発明したフェノール樹脂(ベークライト)です。
セルロイドも、天然の素材を利用して作る「半合成プラスチック」と呼ばれ、セルロイドの方を世界最初に発明されたプラスチックとする向きもありますが、フェノール樹脂は、人類が人工の化学物質から作り出した世界で初めての合成樹脂です。

1852年 嘉永5年 エボナイト発明
1869年 明治2年 セルロイド発明
1907年 明治40年 フェノール樹脂(最初に発明されたプラスチック)発明

生ゴムに橋を架けて作られるエボナイト

ゴムの原料である生ゴム

ゴムの樹から樹液を採取し、これに酸を加えて固まらせたものを生ゴムといい、天然ゴムの原料となります。
ゴムの樹の幹の外皮に一定角度の斜めの切り傷を幹の周囲にぐるぐるつけます。そうすると、ゴムの樹の表面近くの乳管組織が傷つけられ、ゴムの樹はその表面を保護しようとして乳液を出します。
ゴムの樹からしみ出してきた乳液をカップで受け集めます。この乳液状のものを「ラテックス」(ラテン語で乳という意味)といいます。
このラテックスは、ゴムの微粒子を40パーセント含むエマルジョンという状態をしており、ちょうど牛乳のようなものです。ラテックスは、酸を加えると固まります。酸を加えたあと乾燥させます。そのときに、燻製のように低い温度で薪を燃やして乾燥するので、通常の天然ゴムは茶色から濃い茶色に着色しています。
エボナイトの削りカスが茶色いのもこの理由からです。ただし、ほとんどのゴムはカーボンブラックを加えるので、黒色をしています。また、着色しては困る場合は、別の処理をします。
このような過程を経て生成した乾燥したゴムを生ゴムと呼びます。

生ゴムに硫黄で橋を架けてエボナイトにする話

生ゴムは粘性・弾性を有する液体なので、一定の形を保つことはできません。この状態の柔軟な鎖状になった高分子を、適当な間隔で隣の分子とお互いに手をたずさえるようにして結び付けて、3次元の網目構造にすると、冷却固化しなくても形状を保つことができるようになります。ゴム製品は、生ゴムの分子を結び付けて3次元構造にしたものです。
このようにお互いの分子を結び付けて網目構造にすることを「架橋反応」(または「橋架け反応」、単純に「架橋」)と呼びます。天然ゴムでは、生ゴムに硫黄を加えて架橋されるため、架橋させることを「加硫」とも呼ばれているのです。この加硫という言葉は、耳になさったことがある方も多いと思います。今では硫黄を使わない架橋も増えておりますが、架橋反応のことを「加硫」と表記されています。
架橋は、化学的な結合であり、温度を上げても分子間の結合は外れないため、流れ出ません。このため、プラスチックのような精密な型に流す成形ができません。
ゴム製品を作る際は、まだ橋を架けていない状態のゴム生地(鎖状分子)を、精密ではない任意の形に成形し、成形品を加硫釜に入れ所定時間加熱し、架橋反応を起こさせます。
架橋反応を起こさせるため、ゴム配合時に添加した硫黄は、加硫工程で架橋反応せず、架橋反応終了後そのままゴム中に残存しています。この残存する硫黄のことを、「遊離硫黄」と称します。この遊離硫黄こそが、後述する曇りや、接触する金属に対する「エボ焼け」の原因となります。

ご承知の通り、ゴムは、もとは上記のように分子間の拘束力が小さい鎖状高分子で出来ているため、簡単に変形します。しかし、輪ゴムなどに接しても明らかなように、反発弾性(力を除くとすぐに元の形状に戻る性質のこと)があります。
もともとゴムは、分子間の拘束力が小さいものの、架橋され、分子鎖同士のところどころで隣の分子と結び合わさっているので、分子同士が自由には移動できず、力を抜けば元の位置に戻ります。力を加えると架橋と架橋の間の分子鎖が変形し、力を除くと元に戻ります。
分子同士の結び目がゴムの反発弾性を生んでいるのです。この点、軟質のプラスチック、たとえばポリ袋などは、小さく握りしめて手を開くと元に戻ろうとはしますが、戻ろうとする早さはゴムに比べて著しく遅く、完全にもとの形状に戻ることはありません。ポリ袋が少しずつしか元に戻れないのは、プラスチックはゴムのように分子間に橋が架かっておらず、分子同士が拘束されていないので、握りしめたときに起きた分子鎖間のずれが急に元に戻れないためです。完全に元の形に戻らないのは、変形した状態で分子が落ち着いたためです。
ゴムは架橋により、分子間が拘束され、通常の高分子より元の形に戻る性能が強化されているのです。

ゴムとしての反発弾性を発揮させるために必要な架橋の程度はそれほど多くはなく、具体的にいうと炭素数で数十個おきに1個程度架橋させてあります。このように架橋されたゴムが一般に皆さんが想像されるゴムです。
一方、架橋密度は変えることができます。架橋が少ないと上記のように反発弾性があるのですが、少なすぎると反発弾性が落ちます。逆にこの架橋密度(加硫度)を極端に高くし、極限まで架橋して分子同士を完全に拘束すると、反発弾性があるゴムからは想像出来ないくらい硬いゴム、つまりエボナイトになるのです。
分子に橋を架けるコントロールによって特性の違ったゴムを作り出すことができるわけです。
具体的な、加硫度合いについて申しますと、硫黄を15パーセント以下にすると、柔らかで弾力に富むゴム製品となり、タイヤ、ホース、ベルト、パッキンなどに使用されます。輪ゴムや軟質ゴムでは4~6パーセントくらいです。加硫度合いが30パーセント以上になると、弾性が少なく、黒く硬い固まりとなり、この状態のゴムがエボナイトです。
前述のように架橋されたゴムは加熱されても流動化しないので、一般的なプラスチック、すなわち熱可塑性プラスチックのように精密に型に流して成型する方法が適用できません。成型方法がとれないので、エボナイトを用いて万年筆などを精密に加工するには切削加工するしかないのです。
架橋したものは溶かして再利用することが出来ないため、リサイクル技術・廃棄物対策が重要です。
エボナイトは削りくずまで完全にリサイクルでき、エボナイトが多用されていたころはリサイクルされていました。現在ではエボナイト自体の需要が少ないため、リサイクルシステムはありません。

ガラス転移温度でエボナイトを理解する

プラスチックなどを加熱すると、固体から軟質の状態になる温度があります。硬質の状態を「ガラス状態」、軟質の物質が固い状態になる温度のことを、「ガラス転移点」といいます。ガラスといっても、窓ガラスのような透明ガラス素材になるわけではなく、ガラスと表記されるだけです。
この点、固体が液体になる温度融点とガラス転移点は、似たような概念です。水の場合は、固体と液体の状態のみを考えれば良いですが、熱を加えると柔らかくなる物質の場合、柔らかい状態と固い状態の境目となる温度があります。
硬いゴムであるエボナイトの状態を、「ガラス転移温度が室温以上に強く架橋された」状態と言います。

加硫度合いごとに、
生ゴムの段階
では、ガラス転移温度は-100℃以下で液体状態、
通常のゴムの状態ではガラス転移温度は室温以下に架橋されて液体であるが形を保っている状態、
エボナイトではガラス転移温度が室温以上になるように強く架橋されて硬い固体の状態です。

加硫されたゴムは、温度が変われば状態も変わります。通常のゴムの状態である「輪ゴム」を-100℃に冷やすと硬いエボナイトと同じ状態になります。温度を下げても架橋と同じような効果になるのです。このことは、「ガラス転移温度」という概念で理解するとわかりやすいです。
エボナイトも、ガラス転移温度の約80℃以上に加熱すると、硬いエボナイトも形状を変えることができます。
これを利用して、ペン芯に温度を加え、ペン芯とペン先を合わせる作業を「アニーリング」と称しています。
このアニーリングが緻密に可能なこともエボナイトでペン芯を作るメリットの一つです。
プラスチックペン芯でもメーカーでペン先に合わせたアニーリングは必ず行われますが、エボナイトペン芯と比べ、加える温度などが異なります。個別のペン先ごとにアニーリングされたペン芯は、ペン先と一組と考えるべきであり、他のペン先には合わないことが多いです。適切なアニーリングが出来る環境でないと、ペン芯の交換は出来ないのです。

まとめて言うと

硫黄によってゴムの鎖状高分子に橋を架けるように拘束したものがゴム、そのゴムの中でも、多くの硫黄によって、完全に拘束したものがエボナイトです。しかしながら、その多く含んだ硫黄がエボナイトを独特の性質にさせるのです。

エボナイトの種類

汎用の丸棒状で製造されているエボナイトには、いくつかの種類があります。
現在全世界で把握できている限り、複数の会社で製造されており、以下のようなエボナイトが製造されています。

黒エボナイト

純エボナイト

主原料としては生ゴムと硫黄だけから作られた純粋な天然ゴムエボナイトです。
当店で使用している黒エボナイト素材が純エボナイトに該当します。
磨くと漆黒な色つやが出ます。
後述のマーブルエボナイトと素材強度には大きな差はありませんので、純エボナイトが特に優れているわけではありません。
黒単色のエボナイトで、ペン芯や小物部品は黒エボナイトで製作します。
黒エボナイトがエボナイトの基本中の基本ですが、素材として一番おすすめというわけではありませんし、素材強度も黒が群を抜いて優れているわけではありません。
電気絶縁用として使用する場合は、以下のカーボンや顔料が入っていると通電性が出てしまうため、この純エボナイトを使用します。
中学生のときに、エボナイトをこすって箔検電器で静電気のテストをしたご経験のある方もいらっしゃると思います。そのとき使用していたエボナイトが、この純エボナイトです。このような機会がなければ、一般にエボナイトを手にする機会はほとんどありません。
黒エボナイトは、一見単純な素材ですが、黒以外のマーブルエボナイトなどと比べて、磨くのにとても手間が掛かります。車の塗装でも、黒が一番仕上げが難しいのと同じです。

カーボン入りエボナイト

水道関係や特定用途向けに使用されるものです。
カーボン入りエボナイトも黒いエボナイトですが、純エボナイトと見分けるのは困難です。
このカーボン入りエボナイトで万年筆を製造していたメーカーもあり、古い万年筆を修理すると、カーボン入りエボナイトだったということも割と多くあります。
純エボナイトと比べ、表面がほんのわずか灰色っぽい黒色です。
削ると、純エボナイトは黄色い削りかすですが、カーボン入りエボナイトは、さらさらとした黒い削りかすが出ます。この削りかすの色で判別する方法が、もっとも的確に判別できる手法となります。

マーブルエボナイト

ゴム生地中に顔料を混ぜて独特のマーブル調の色を付けたものです。
顔料が入っていてもエボナイトですので、黒エボナイトと同じように、エボナイト独特の表面変化は起きます。
エボナイトは製造メーカーによる品質差が歴然としていますが、なかでもマーブルエボナイトは、メーカーによる品質の差が著しいです。

当店でも、
赤マーブルエボナイト
グリーンマーブルエボナイト
パープルマーブルエボナイト
マリングリーンマーブルエボナイト
オレンジマーブルエボナイト
赤スワールマーブルエボナイト
を使用した製品を製造しております。

その他のエボナイト

上記でご説明したエボナイトは天然ゴムを架橋反応させたエボナイトですが、合成ゴムを架橋させた硬質ゴムももあります。
エボナイトとは、一般的に天然ゴムの硬質ゴムのことをいいますが、合成ゴムの硬質ゴムのことをエボナイトと称しているメーカーもあります。ただし、合成ゴムの硬質ゴムは一般的に出回っておらず、エボナイトほどの硬さもないため、万年筆素材として使用されることはありません。

エボナイトの素材特性について

エボナイトの比重

エボナイトは真っ黒で、いかにも重そうな感じがします。
ところが、比重は約1.2、万年筆に使われるプラスチック素材であるアクリル樹脂(PMMA)の比重が1.19、AS樹脂(SAN)の比重が1.07-1.10と、決して重たい素材ではないのです。アクリルとエボナイトの比重がほぼ同じと覚えておくとわかりやすいです。
M形吸入方式は質量感を持たせてありますが、中芯がステンレスのため、質量感が出るのです。
参考までに一般的な金属の比重は以下の通りです。
・マグネシウム 1.74
・純アルミ 2.7
・純チタン 4.51
・純鉄 7.85
・ステンレス(SUSU304) 7.93
・純銀 10.5
・24金 19.3

※比重:摂氏4℃の水の質量と同体積の物質の質量との比。単位はない。比重が1よりも大きいと水に沈み、1よりも小さいと水に浮く。
カートリッジの素材として使われるポリエチレンは0.9程度で、1より小さいため、水に浮きます。

金属のうち、比重が4~5以下の金属が「軽金属」です。それを超えると重金属の分類となります。

エボナイトと他素材の見分け方

プラスチック素材でも、磨いた直後のエボナイトと見た目がとてもよく似ていて、一見見分けがつかないことがあります。
プラスチック素材で出来た商品を見分ける一手法がありますので、ご紹介します。

細いノズルの先端に豆電球状となった発光部を有するようなライトを用意し、画像のように、中から、ライト発光部を、透かすようにして照らします。

中から明かりが透けて見えます。

エボナイトは、以下のような、ごくごく薄い削りかすでないかぎり、遮光性があります。

黒いプラスチックを削った場合の削りかすは、ほとんどの場合、白い色であり、黒や茶色ではありません。削ることができれば、削りかすの色からも分類はできます。
また、エボナイトは独特の香りがありますので、香りからも分析できますが、部品が小さいときは、香りがわかりにくいことも多いです。
エボナイトか否かは見た目である程度区別ができますが、表面に塗装等が施されていない限り、中から明かりが透けて見えるか否かで判別するのが一番容易で確実です。

エボナイトの特徴

素材としての性能の高さは、他の素材を寄せ付けないほどすばらしいものがあります。特徴をご紹介します。

形状安定性・寸法安定性

エボナイトは、形状や寸法が安定しており、年月が経過しても寸法が変化することがありません。
エボナイト以外では、寸法が収縮する素材はあり、かつて万年筆素材として盛んに使われたセルロイドは収縮が著しいです。収縮にしたがって、素材が劇的に曲がったり、いびつな形状になったりします。外部にはめたリングも外れてしまうこともあります。
古いセルロイド製品でも首やペン芯はセルロイドで作ることはできず、エボナイトで作られていました。軸がセルロイド、首がエボナイトの場合、軸に切られたメスねじのセルロイドが収縮して固くオスねじを締め付けてしまい、外しにくいことがあります。エボナイトはこのようなことはありません。
セルロイドの場合、収縮を防止するために、リングを内側にはめることもあるくらいです。
エボナイトは、素材が時間経過に伴って収縮することがありません。

素材の強度・耐久性

エボナイトは、耐久性が抜群に優れております。金属を遙かに超える耐久性があり、加工精度も出しやすいです。
100年以上前のエボナイト製万年筆が、しっかりとした状態で現存しています。
また、磨くと、非常に素晴らしい光沢が出ます。
他のプラスチックなどと違い熱にもある程度耐えることができます。
電気絶縁体でもあり、摩擦すると静電気を帯びることでも有名です。
最大の特徴は、ストレスをためにくく、素材内部にクラックなどを発生させないこと、耐摩耗性があること、素材相性の良さです。
セルロイドやプラスチックは素材にストレスをためやすく、古い品物では、ねじ部品を取り外して再取付しただけで応力が変化し無数のひび割れが発生することがあります。
プラスチックは圧縮力にはある程度耐えることができますが、拡張力にはめっぽう弱いです。
この点エボナイトはかなりの拡張力に耐えることができます。
これらの性質から、適切な設計でペン芯や首部品をエボナイトで作れば、非常に強固にペン先が軸に入り、ペン芯とペン先がずれたりすることはありません。
古いセルロイド製品でも首やペン芯はエボナイトで作られているのは、セルロイドの強度が、首やペン芯を作ることができるほどの強度がないからです。
また、エボナイトは、素材相性がよいので、エボナイト同士でねじを切ったとき、プラスチックねじ同士でたまに見られる、ねじの山と山ねじ同士が摩耗しがこすれて粉を吹くように摩耗したりすることはありません。プラスチックと金属のねじような緩みやすさもありません。エボナイト同士で作られたねじを締め付ければ山と山の斜面が適度に密接し、非常に良好な条件でのねじ締め付けが可能で、ねじがゆるむことがないのです。

その他 物理的特性

エボナイトは耐酸、耐アルカリ性で、電気絶縁性(黒エボナイトの場合)が優れています。
インクによる影響を受けにくく、プラスチックやセルロイドのように、ごく一部の攻撃性のあるインクの影響で素材にヒビが入るということがありません(そもそも攻撃性のあるインク自体のご使用は避けるべきです)。

素材表面は、インクとの相性が抜群に良く、誠にもってペン芯に向く素材です。一部のプラスチック製万年筆部品は、表面がインクをはじいてしまうため、インクとの相性をよくするために、特殊な表面処理をしているものもあるくらいです。素材表面のままで何もしなくてもインクとの相性が良いエボナイトは、ペン芯の素材としては極めて有利です。

エボナイトは耐油性もあります。
適切な肉厚を保って適切に設計すればエボナイト製品はかなり高い耐久性を誇り、割れたりすることもありません。

一部のプラスチックは、可塑剤を多く含有するプラスチック製品が接触すると、接触した面が溶けてしまう現象が起きます。消しゴムとスチロール樹脂が接触して溶けるようになってしまった場面をご覧になったことがある方も多いと思います。
エボナイトは、樹脂の可塑剤の影響を受けず、可塑剤によって表面が溶けるようなことがありません。

エボナイトはセルロイドのように燃えることがありません。
セルロイドは燃えやすい(というより危険物と言った方が良い位)ので、無垢の状態での保存はもちろんのこと、削りカスなどは、非常に危険で、取扱がものすごく怖いものです。実際、かつて万年筆工場は良く火事になったそうです。セルロイドの削りかすはガソリンのようなものと言われており、削りカスをたき付けに使おうとした人の話では、危なくてとても使えなかったそうです。

100グラムを超えるセルロイド類はバス電車タクシーなどへの持ち込みは禁止となっています。たとえば、100グラム以上となるセルロイド素材やセルロイド製の万年筆などを公共交通機関を利用して移動することは出来ないのです。
郵便局の内国郵便約款には興味深い既述があり、
セルロイド及びその製品並びに引火しやすい物は、
1個又は1品ごとに紙包とし、又はびん若しくは缶に入れ、これを堅固な木製又は金属製の箱に納め、各個の動揺及び摩擦を防ぐ装置をし、かつ、郵便物の表面の見やすい所に「セルロイド」又は「危険品」の文字を朱記すること、とあります。

エボナイトは、プラスチック同様、金属よりも高い熱膨張率を示します。このため、製作時は、管理された温度のもとで寸法を測定したり、切削加工を行う必要があります。

エボナイトの接着

エボナイトは、接着剤での接着が向きません。
ある程度の面積の平面同士ならば接着は出来ますが、不具合が起きないような完璧な固定は、少々ノウハウが必要です。
当店のM形吸入方式透明軸は、エボナイトと透明アクリルパイプを、互いにストレス与えること無く完全な接着が実現したことから商品化できるようになりました。

プラスチックは、接着剤を着けると表面が溶けることがあります。接着剤によって表面が溶けるプラスチックは、面積の狭い部分でも接着が可能です。
エボナイトは表面が溶けません。エボナイトの場合、面積の狭いひび割れのようなものは、接着剤ではまったく補修できません。
この点セルロイドは接着が容易です。酢酸アミル(通称アミール)で接着できますので、板を丸く成型し、継ぎ目を酢酸アミルで接着してパイプを作ることが可能でした。古いセルロイド万年筆の軸表面に、この継ぎ目をみることが出来ます。セルロイドの角材を削り出すよりは、板を丸めてパイプにする方が、表面の柄がきれいに出るため、板から作る方法が多用されました。

熱伝導率について

エボナイトは熱伝導率が低く、手の温度が軸のインクタンク内の空気に伝わりにくいと紹介されることが多いです。
この点について、以下の2点に注目する必要があります。

熱伝導率はプラスチックと大差ありません

エボナイトの熱伝導率は、万年筆に使用されるプラスチックであるアクリル樹脂やAS樹脂と大差ありません。
従って、エボナイトの熱伝導性を優位に語る意義はありません。

カートリッジ・コンバーター方式では、軸の熱伝導率は問題になりません

熱伝導率が問題となるのは、軸の中にあるインクタンク内の空気が暖められるとインクが過剰に出てしまうためです。
実際は、軸の熱伝導率が問題となるのは、軸の中に直接インクを入れるタイプの商品のみです。
カートリッジ・コンバータータイプでは、カートリッジやコンバーターにインクが入ります。カートリッジなどの表面と軸素材の間とは、空気の層があり直接接触していません。軸表面の温度は、カートリッジ内の空気には伝わりにくいのです。このため、カートリッジタイプでは、熱伝導率がエボナイトと比べものにならないくらい高い金属軸も実現できるのです。
カートリッジ・コンバータータイプは、インクタンク内の空気に温度変化が伝わりにくいという点では、とても理想的な構造です。

ピストン吸入タイプや、プランジャー式、M形吸入方式のような、軸の中が直接インクタンクとなっているタイプが、熱伝導率が問題となるのです。
インクが少なくなって、インクタンクの中は空気の方が多くなったとき、空気に温度が加われば、ペン先からインクが過剰に流出する恐れがあります。
インクは温度によって膨張収縮しませんが、空気は温度によって激しく膨張収縮するためです。
軸の中がインクタンクとなっているタイプでは、軸表面を通じてインクタンク内に直接温度が伝わるため、軸素材の熱伝導率が問題となるのです。
インクタンク内の空気に温度が伝わったとき、M形吸入方式万年筆のような、後部つまみを締めるとインク出が遮断される構造の万年筆で無い限り、インクを満量近くに保つ以外、回避する方法がありません。
カートリッジ・コンバータータイプのように、直に体温が伝わらず軸とインクタンク(カートリッジやコンバーター)の間に空気の層を持っているものは、温度によるボタ落ち回避の側面から考えるととても優れています。
もっとも、現在のペン芯が装着された万年筆では、軸に直接インクが入る方式でも、実際は、インクが過度に出ることは少ないです。

エボナイト特有の現象について

生ゴムと硫黄で作られたエボナイトは、いくつかの特有の現象があります。

香り

素材が天然ゴムなので、ゴムの香りがします。香りだけでエボナイトと判別できるくらいです。
香りは完成直後が強く、時間が経てばある程度は薄れます。
エボナイトの香りは、身近な天然ゴムの香りと似通った香りで、ゴムの香りが苦手な方は、ハイブリッド軸のほうがおすすめです。軸全体がエボナイトですと、香りはかなりします。
ハイブリッド軸は、要所要所にエボナイトを使用しておりますが、エボナイトの香りが著しく少ないか、ほとんどしません。
ハイブリッド軸のキャップと軸本体は特殊樹脂ですが、特殊樹脂自体は、製作直後ほどわずかに澄んだ香りがします。

被削性の悪さと加工方法の制約

加工(被削性)が悪く、刃物の切れ味がすぐに悪くなってしまいます。金属やプラスチックよりも遙かに被削性は悪く、被削性の悪さは驚くほどひどいです。表面を磨くのも、プラスチックは容易につやが出ますが、エボナイトはなかなかつやがでません。
加熱しても流動化しないので、熱可塑性プラスチックの成型方法が適用できません。成型方法がとれないので、万年筆などを精密に加工するには切削加工しなければならないです。
こういった理由から、非常にコストも掛かりますし、製造するのに根気も必要です。

曇り現象

エボナイトは、光(紫外線)にさらし続けると、光沢が無くなって素材が曇ってきます。
エボナイトには、この、曇るという特質があります。これは致し方ない点であります。エボナイトの曇りについては、後掲のような経過をたどります。
曇りは、後述のように、もっぱら紫外線により促進されるので、良質なエボナイトならば、暗所に保存すれば曇ることはありません。

エボナイト曇り経過

エボナイトは光沢があっても、ある一定条件のもとで、表面が曇ってしてしまうという性質があります。その曇りの経過にはいくつかの段階があります。
お手元に、エボナイトで作られた万年筆があっても、その状態がエボナイトの一般的な姿ではない可能性があります。
エボナイトは、以下の経過により、表面はかなり激変します。
お手元のエボナイトが水を弾かないとしても、完璧に磨いたエボナイトは完全に水を弾きます。
色は、黒エボナイトを基準にしています。

第一段階

光沢:最高に良い 色:光沢漆を上回る輝く黒色
最上級のツヤの状態です。表面は完全に水を弾きます。通常ここまでのツヤを出すのは非常に困難です。当店の製品ではエボナイトのもつ最高のツヤを出しており、それは漆より遙かに勝るツヤです。
一般的にはここまで磨かれることはありません。完全に磨かれたかをテスト検知薬でテストしないと、完璧に磨かれているかはわからないからです。
ここまでつやを出すと、その後の曇りが起きにくいです。
表面的なつや出しは簡単ですが、将来的な曇りを遅らせるほどまでの完全なつや出しが適切になされたか否かは、独自の検知薬を使わなければ到底わかないものです。
磨きに入る前の切削などの各段階で完璧に仕上げれば、表面の光沢も素晴らしい仕上がりとなります。
光沢があっても、磨きすぎて形状がいびつになっては元も子もありません。角のエッジがダレないよう気を配り、適切に磨く必要があります。
表面に削り痕が残っていたとしたら、絶対に良い表面は得られません。最終的に磨くとしても、各段階ごとに完全に仕上げなければ、良い表面は得られません。

第二段階

光沢:非常に良い 色:光る黒色
第一段階とあまり変わりません。表面は水を弾きます。
良質なエボナイトなら、光から遮断しておいていただければ、これ以上の段階に進むことはありません。

第三段階

光沢:まぁまぁ良い 色:黒色
少しだけ光沢が失われて、曇りが起きているかどうか、といった状態です。表面は水を弾きます。
曇りの起きやすさは、エボナイトの品質によっても違いがあります。
第一段階までつやを出して、暗いところに置いておくと、曇りにくくはなりますが、エボナイトの品質によっては、暗いところに保存しても曇ってくる、「置き曇り」が起きることがあります。
当店で主として使用しているエボナイト輸入材は、この置き曇りが起きにくい素材です。

第四段階

光沢:少ない 色:黒色~黒茶色
若干表面が白くなってきて、使用しないときと光にさらされない部分(首軸など)と、光にさらされる部分(軸やキャップ表面など)に違いが出てきます。
表面は水が弾かなくなりはじめます。

第五段階

光沢:無い 色:黒茶色
表面が黒茶色になってきて、光沢が少ないです。
表面は、たとえば、ぬれぞうきんで拭くとうっすら茶色く色がつくことがあります。

第六段階

光沢:全く無い上に粉を吹く 色:黒茶色で粉は白色
この状態にまでなることはめったにありませんが、保管状況が著しく悪いと、ゴム特有の表面に粉が吹く現象(ブルーミング現象、ブルーム現象)が起きます。
よほど管理がひどくない限り、このように粉が吹くようなことはありません。

曇りを防ぐには

曇りを防ぐには、曇りのメカニズムを知る必要があります。
エボナイトは、架橋密度(加硫度)を極端に高くし、分子同士を完全に拘束したものですので、加えた硫黄はすべて架橋反応するわけではなく、若干が遊離硫黄として完成後のエボナイトの中に残っているのです。
エボナイトの中に残った遊離硫黄が、エボナイト表面において、空気中の水分と紫外線によりエボナイトを、さらに硫黄と化合させる硫化が起きます。これにより曇りが発生するのです。
硫化は、空気中の水分と紫外線により促進されますので、光に当てなければ良いのです。
エボナイトの曇りは、エボナイトの品質が悪いために起こるのではありません。保存状態によるところが非常に大きいです。
ショーケースのようなところで、長期間蛍光灯の照明下で置いておくと、上半分だけが曇ります。長期間照明に当てる場合は、紫外線が出ないか少ない照明(LEDやUVカット蛍光灯)が理想です。

エボナイトの曇りといっても、前述のように何段階かの過程があります。
エボナイトの曇りを防ぐには、なんと言っても乾燥した暗いところに置くことです。遮光が理想ですが、少々光に当てる程度では問題ありません。光に当てても、すぐに反応が起きるわけではありません。
保管条件以前に、製造された初期の段階で、最高のつやを出すことです。
当店の製品ではエボナイトのもつ最高のツヤを出しており、それは漆より遙かに勝るツヤです。
完全に磨かれたかをテストする方法を熟知していないと完全なつやは出せません。表面的なつや出しは簡単ですが、将来的な曇りを遅らせる完全なつや出しが適切になされたか否かは、表面を見ただけでは到底わかりません。
表面に油を塗布したり、手の脂でこするなどしても、油分によって表面のツヤが出ていかにも曇らないような感じがするだけで、曇り防止にはまったく効果はありません。
当店ではエボナイトを磨いた後、完全に脱脂して表面の油を取り除き、表面の油を塗るようなことはありません。
同じ棒から切断して作った軸でも管理方法によって、驚くほど全く違った表面状態となります。
もっとも、曇っても強度には影響ありませんし、影響が出ないような設計となっております。

エボ焼け

曇りとは似て非なる現象に、「エボ焼け」と言われる現象があります。
エボ焼けとは、古くから表現されてきた伝統的な呼び方で、エボナイトの遊離硫黄が金属の表面を変色させることを言います。特に、金のペン先の表面を赤金色に変色させる場面で目にすることが多いです。
エボナイトの表面が曇ることをエボ焼けと呼ぶのは誤用です。
エボ焼けが起きてもペン先素材に影響はありません。

エボ焼けが起きやすい条件

キャップがエボナイトの場合、ペン先全体をエボナイトで覆っているようなものなので、ペン先のエボ焼けは起きやすいです。また、キャップの気密が高いほど起きやすいです。
また、ペン先の素材によるところが大きく、かつて小規模企業で作られていたペン先の一部は、表面を完全に磨いて取り付けても、1日でかなりエボ焼けするくらいでした。以前はエボナイトで作られた万年筆が多かったので、エボ焼けしないような金のペン先の配合を各社ずいぶん苦慮していたようです。一部のメーカーはアルミを入れて改善したものの、ペン先先端に溶着されているイリドスミン合金が取れやすくなってしまったという経緯もあったようです。イリドスミンの溶着は、金自体が溶けてイリドスミン合金を包み込むように着いているため、ペン先本体の金の品質は大変重要なのです。
当店の商品の場合、ハイブリッド軸では、目立つエボ焼けが起きることは少ないです。エボナイト軸では、表面が均一に色が変わる程度になりますが、ひどい色になることはありません。

エボ焼けはインク出に無関係

ペン先にエボ焼けが起きると、インクの出が悪くなるように言われることがありますが、適切に設計されたペン芯が装着されていれば、そのようなことはなく、杞憂にすぎないです。
ペン先裏側のペン芯接触面のエボ焼けを除去しても、インクの流れは変わりません。仮にエボ焼けがインクの流れを滞らせるとしたら、エボ焼けを除去するべき箇所は、ペン先裏側ではなく、切り割りスリットの隙間側面ですし、スリットにはスリットという名の通り隙間が空いているので、エボ焼けは問題となりませんし、実際出が滞ることはありません。出が滞るとしたら、エボ焼けではなく、ペン芯の設計に問題があります。少なくともmasahiro万年筆製作所製品ではご心配ご無用です。

エボナイトの良否

エボナイトの良品判定は簡単にはできませんが、完璧に磨いた後、完全に遮光して保管した状態で曇りが発生する「置き曇り」が発生するか否かで素材の良否が判別できます。
遮光したのに曇ってしまう「置き曇り」が発生してしまう素材は、遊離硫黄が多すぎる素材で、置き曇りが発生しない素材よりは劣ると言わざるを得ません。
この良否は、完璧に磨いたあと、遮光して保管しないとわかりません。
当店では置き曇りが起きない良質な素材を使用しております。
他にもいくつかの良否判定基準がありますが、当店独自の基準によりエボナイトの良否判定を行い、現在使用しているエボナイトを採用しております。

置き曇り耐性の判別方法

きれいに磨いた状態で、遮光して保存し、曇りが発生するか否かでわかります。
一番容易に判別できるのは、万年筆のキャップを閉じた状態カバーされる部分の状態でわかります。
すなわち、キャップを閉じた状態で光にさらされない「首」や、軸のねじ部分の曇り状態で判別できます。
ただし、この曇りについては、湿度なども影響するため、上記は簡易判別方法としてお考え頂ければ幸いです。

エボナイトにまつわる話

エボナイトは天然素材か

エボナイトは天然素材と言えるか、考えてみたいと思います。
プラスチックも天然の石油から作られるので天然素材と言えるのでしょうか?
エボナイトと輪ゴムは兄弟のようなものなので、輪ゴムが天然素材と定義されるならばエボナイトも天然素材なのでしょう。ただし、エボナイトは土には帰りません。
エボナイトの原料は、生ゴムと硫黄で、石油から精製合成された原料を使用していないですし(硫黄については、現在では、石油精製の際の副産物として大量に得られたものが使用されております)、生ゴムから作るためまさに天然ゴム。従って天然素材と言っても良いのかもしれません。
とはいえ生ゴムを架橋反応させて作られており、工業的な工程が必要です。
思うに、エボナイトを天然素材とするのは厳しいのでは無いかと考えます。

現代におけるエボナイトの使用例

現在エボナイトはほとんど手にする機会はありませんが、現在ではどのような用途で使用されているのでしょうか。
なんでもエボナイトで作れば良いというわけではありません。エボナイトの特徴が発揮でき、他の素材よりもエボナイトで作った方が良い品物のみ、エボナイトで作られるべきです。
万年筆のように、エボナイトで製造する方が良いとしても、コストなどの面から採用されない場合が少なくないです。大手メーカーが、エボナイトでペン芯を製造することは、現実的にはコスト面から難易度が高いのです。
現代では、エボナイト素材は万年筆の他には、楽器のバスーン(ファゴット)内部や、楽器や喫煙具のマウスピースに使われています。バスーン内部の部品としてはエボナイトは欠かせません。

ところで、昔のレコードはご存じだと思います。シェラックで作られた硬いSP盤、SP盤よりも柔軟性のある塩化ビニールで出来たLP盤やEP盤。レコードも実はエボナイトで作られた時期があります。
エボナイトもシェラックも、外観が非常に良く似ています。
しかし、スクラッチノイズがひどく、エボナイトからシェラック素材のSP盤に変わって音質的に進歩をとげました。
レコードの録音方式自体は、1924年ベル研究所によってマイクなどを使った電気吹込みの実験に成功し、従来のラッパ状の集音器を用いた機械式吹き込みに比べ音域は2オクターブ半も広く、澄んだ音で微妙な音まで録音できるようになりました。

また、エボナイトというと絶縁材として有名で、以前は弱電関係の絶縁材料として、バルカナイズドファイバーとともに多用されており、JIS規格も制定されていましたが、JIS規格も廃止され、現在は絶縁材料として使われることはほとんどありません。
エボナイトは絶縁材としては一般的に使用されなくなりましたが、バルカナイズドファイバーは現在でも多用されており、自作パソコンを作る方ならば、マザーボードを固定するねじに使われる茶色いワッシャーといえばおわかりになると思います。
一見エボナイトに見えるものでも、熱硬化性樹脂(フェノール樹脂)が使用さていれるケースがほとんどです。
フェノール樹脂は1907年、アメリカのL.H.ベークランドにより最初に発明された合成樹脂で、ベークライトや、フェノールホルマリン樹脂とも呼ばれ、ヤカンや鍋の取っ手として見ることができます。外観はエボナイトにどことなく似ています。

プラスチック素材

フェノール樹脂の名称が出たところで、エボナイトとは似て非なる物質である、プラスチックについて見てみようと思います。
プラスチックには熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂があります。前述のフェノール樹脂は熱硬化性、後述のAS樹脂は熱可塑性樹脂です。

熱硬化性樹脂
成形の時に熱と圧力とが加えられると硬化することで形状を作りだします。再び加熱しても柔らかくならず、再成形ができません。加熱するとそのままの形で焦げてしまいます。
再成形できないので、廃棄物のリサイクルが課題になります。
熱硬化性樹脂の特徴をたとえて言えばせんべいと言うことができます。
熱硬化性樹脂は、完成された状態の構造が(三次元網目構造、架橋、と言った点で)ゴム(エボナイト)にとても類似しています。
パイロットのインク瓶(INK-30など)の蓋が、熱硬化性樹脂の「ユリア樹脂」が使われています。
コチコチでかなり硬く、強く叩くと割れます。

熱可塑性樹脂
成形の時は熱硬化性樹脂と同じですが、再び加熱すると溶けて、冷やすとそのままの形で固まるため、何回も加熱・冷却を繰り返えすことが可能です。
特徴をたとえて言えば、キャラメルと言えましょう。
現在では、ほとんどの万年筆が、熱可塑性樹脂、中でもAS樹脂またはアクリル(PMMA)樹脂で作られています。

万年筆に使われるプラスチック素材

エボナイト素材ではない万年筆はAS樹脂またはアクリル樹脂が使用されているケースが多いです。
なお、以下のAS樹脂とアクリル樹脂は、当店がハイブリッド軸で使用している特殊樹脂ではありません。

AS樹脂

現代に至るまで万年筆素材として伝統的に使われているプラスチック素材は、AS樹脂です。
現在でも軸・キャップや部品にはAS樹脂で作られた万年筆は多いですし、ペン芯はAS樹脂で作られることが多いです。
なお、AS樹脂はABS樹脂とは違います。ABS樹脂も硬化塗装を施した上で比較的安価な筆記具の素材として使用されている例もありますが、万年筆にはAS樹脂の方が向いているようです。

AS樹脂は、発泡スチロールをはじめとした、多くの日用品素材や、プラモデルの素材として使われているPS(ポリスチレン)の特徴を生かしながらその欠点を改良したプラスチックの一つです。
正式名称は、スチレン・アクリロニトリル・コポリマーで、海外では名称の略であるSAN(Styrene Acrylonitrile Copolymer)と呼ばれておりますが、日本ではAS樹脂と呼ばれています。
AS樹脂は比重1.07-1.10で、スチロール樹脂の機械的強度、耐熱性、耐溶剤性、耐化学薬品性、耐ESC(環境応力亀裂)性、耐候性、表面硬度などが改良されております。
表面光沢や透明性がやや劣るものの、透明樹脂の中に入る範囲にあります。有機溶剤を除き弱酸・弱アルカリ・油類に耐えます。
型に流して成形したときの収縮率も小さく寸法精度も良いです。
用途としては、透明で耐溶剤性が良いことから、ライター容器、扇風機の羽根、化粧品容器、文具などに使われています。どういうわけか、専門書をひもとくと、AS樹脂の用途として扇風機の羽根が真っ先に挙げられています。当店の扇風機の羽根もAS樹脂製という表記がありました。
手で触ってみた印象では、柔軟性や弾力性はなく、硬くもろい感じがします。
強く折り曲げると独特の亀裂が発生します。

AS樹脂の比重は1.07-1.10ですが、エボナイトの比重は1.2位です。1よりも大きいので、AS樹脂もエボナイトも水に沈みます。エボナイトの方がAS樹脂よりもほんの少し重たいということになります。

アクリル樹脂

現在では、アクリル樹脂(PMMA樹脂)も万年筆素材として使われています。
アクリル樹脂は、比重1.19、エボナイトとほとんど同じ比重です。ガラスより光線透過率が良く、透明性に優れています。透明プラスチックの中では、最も耐候性が良い素材です。第二次大戦中から、飛行機の風防ガラスとして用いられ、「風防」という略称でも有名です。
硬度が高く、表面光沢に優れることから、万年筆素材として使われています。
AS樹脂よりも表面光沢は良好ですので、皆さんも一見しただけで違いがわかると思います。
わかりやすい例で、パイロットではカスタム67がAS樹脂、カスタム74がアクリル樹脂製です。

万年筆素材としてのエボナイト

最後に、万年筆素材としてエボナイトを使う意義を改めて考えてみたいと思います。
エボナイトはエボナイトを使った方がメリットがあるから使用するべきなのであって、エボナイトのメリットを生かすには、ペン芯や、ペン先とペン芯が入る筒であるスリーブなど、エボナイトであるべき部品をエボナイトで作らないと意味が無いと考えております。
極端に申しますと、エボナイトであるべき箇所さえエボナイトであれば、他の部分はエボナイトである必要はありません。
特殊樹脂商品で、重要な箇所のみエボナイトを使用したハイブリッド軸は、重要部分はすべてエボナイトですので、エボナイトのメリットが活かされています。
キャップや軸素材としても、色柄や手触りなど、エボナイトに魅力を感じて頂けるならば、エボナイトを用いる意義は大いにあります。

鉄の刃物とステンレスの刃物

皆さんのご家庭には包丁があると思います。ステンレス製でしょうか。鉄(鋼)製でしょうか。
ステンレスは錆びない(厳密には錆びにくい)から良いですが、鉄は錆びやすいです。錆びるという致命的な欠点がありながら、本格的な刃物はみな鉄製です。
エボナイトも曇るという欠点がありますが、素材としての性能の高さは、他の素材を寄せ付けないすばらしいものがあります。
エボナイトの曇りを、鉄の刃物の錆びと比較して考えてみると、わかりやすいかもしれません。
プラスチックやセルロイドなどを磨くと、いとも簡単に磨くことができて、エボナイトよりは容易にAA級のツヤが出せます。
エボナイトはつや出し以前に削り目を消すのも難しいです。
総磨き総エボナイトはあまりにも歩留まりが悪く、情熱がなければとても手かげられませんが、良質な素材が入手出来る限り、継続して行きたいと思います。