海外では筆記に青いインクが使われますが、日本でも、万年筆全盛期は黒よりも青いインクの方が売れていたようです。青インクとしては、ブルーブラックインクが圧倒的なシェアだったとのことです。
現在では、ブルーブラック色のインクがブルーブラックインクですが、硫酸第一鉄を含む伝統的な古典的ブルーブラックインクは、色がブルーからブラックに変色することからブルーブラックインクと呼ばれていました。
パイロットでも1996年頃、ブルーブラックインクの配合を一新し、ブルーブラック色のインク古典的ブルーブラックインクから、現在の硫酸第一鉄を含まないブルーブラック色のブルーブラックインクに変わりました。
現在のブルーブラックインクは、おすすめです。

現在のパイロットブルーブラックインクの特徴

特筆すべき特徴は、筆跡が水に流れにくいです。このため、ペン先に付着した場合、色が落ちにくいですが、「カス」と呼ばれている沈殿物が発生してペン先ペン芯を詰まらせることがありません。
ペン先のインクが乾いてしまっても、分解せずに出を回復することも出来る場合が多いです。

注意すべき特徴

筆跡が消えにくいため、最近はあまり使われなくなった「インク消し」で消すことが困難です。
ペン先ペン芯に付着したインクが水に流れにくく、若干の中性洗剤を利用しないとインクは落ちないことが多いです。
また、キャップを外して長く放置した場合のように、インクが空気に長くさらされて濃くなったような状態で筆記すると筆跡がにじむという弱点はあります。
しかし、この点は、気密性の高いキャップが装着された万年筆(現代の万年筆のほとんどは大丈夫です)を使用し、使用しないときは頻繁にキャップをしていただければ、不便を感じることはほとんどないと思います。
逆に言えば、パイロットのブルーブラックインクを使用していれば、ペン先から出るインクの濃さとにじみ具合で、キャップの気密性がわかります。

以下で、さらに詳細に解説してみたいと思います。

古典的ブルーブラックインクとは

伝統的なブルーブラックインクは、今とは配合が大きく異なります。主成分は、青い染料と硫酸第一鉄・タンニン酸等で、強酸性のものでした。
原理は、瓶の中では、タンニン酸と硫酸第一鉄が、タンニン酸第一鉄に変わります。瓶の中にあるときは、タンニン酸第一鉄は無色で水に溶けやすい性質です。そのため、青い染料で色を付けているだけの状態といえます。
書いた直後は、青い染料の色です。書いてから時間が経過すると、空気中の酸素により、無色のタンニン酸第一鉄が黒色のタンニン酸第二鉄に変わります。
このタンニン酸第二鉄は、いわば顔料と言っても良く、水に流れませんし、耐光性もあると言われてきました。色も青い染料と混じって、黒変し、まさにブルーブラック色になります。
その後、青い染料は耐光性が無いため消えてしまい黒色のタンニン酸第二鉄の色だけが残ります。
戦前の筆跡で、茶色い筆跡を目にすることがあると思います。これは、ブルーブラックインクのブルーが色あせて、タンニン酸第二鉄のブラックだけになった状態に他なりません。
伝統的なブルーブラックインクはこのようにブルーからブラックに変色するということから、ブルーブラックという名前がついているのです。
パイロットで1996年まで発売していたブルーブラックインクは、この古典的ブルーブラックインクでした。

古典的ブルーブラックの欠点

カスの発生

沈殿物(いわゆる滓)が発生しやすいです。ペン芯にカスが蓄積してインクが出なくなることは、古典的ブルーブラックインクが常用されていたころは頻発していたようです。
この古典的な旧ブルーブラックインクは、瓶の中で酸素によりタンニン酸第一鉄が第二鉄になり沈殿して滓が溜まるという現象が起きることがあるのです。
そのため、酸素の通気性があるプラスチック瓶ですと、色の変色が激しいです。当時、モンブランやパーカーでは、プラスチックボトル入りのインクをかなり安く売っていて、お求めになった方も多いと思います。もしかしたら、色の違いに驚かれたかもしれません。原因は、プラスチックボトルにあるのです。カートリッジ式インクもカートリッジがプラスチック(ポリエチレンなど)では通気性があり、変色したり滓が溜まる原因となるので、パイロットの品物などは、アルミの袋に包まれておりました。
滓が溜まるというのはとても困った現象です。
ペン芯のインク溝に、知らぬ間にインクが溜まるからです。また、水洗いしただけでは滓は落ちず、分解しなくては絶対に除去できないのです。滓が溜まらない今の主流のインクでしたら、分解しなくても洗浄が可能場合が少なくないことを考えると大きな違いです。カス、すなわちタンニン酸第二鉄は、水に流れず、特定の洗剤を用いて落とすか、物理的にこそぎ取るしか除去する方法が無いです。
滓の溜まりやすさは、メーカーごとにかなりの違いがあります。

強酸性

古典的なブルーブラックインクは強酸性なので、万年筆へのダメージも大きいです。
品質の悪いステンレスを使ったステンレスペン先は、首の中でペン先の根元がボロボロになってしまうことがよくありました。

現実は耐光性が低い

古典的なブルーブラックインクは耐光性を求めて開発された経緯もあり、当時ご使用になっていた方は、耐光性を期待された方も多いと思っています。このことからも、新しいブルーブラックインクが耐光性や水への流れにくさが発揮されているのは当然の帰結といえます。
古典的なブルーブラックインクの実際の耐光性は、あまり良いとはいえないと思います。
ブルーが色あせたあとのタンニン酸第二鉄のブラック色も、真っ黒では無く、薄い茶色という感じで濃い色とはいえません。
戦争当時のものを展示した博物館のようなところで、戦地からのはがきが展示されていることがあります。ショーケースの中で蛍光灯にさらされているためか、すでに判読が出来なくなってしまっている筆跡も多くあります。
光にさらさなければ、まだ条件は良いと思いますが、少なくとも永久保存向けとは言えないような気がします。現代でしたら、保存したい書類について、耐光性の高いインクでなくても、インクで書いて、それをコピーするのが一番です。であるということに気づきました。
そのため、滓の心配はいりませんし、実際滓もたまりません。

インク消し

伝統的なインク消しは、2つの液体を使う2液式で、古典的ブルーブラックインクのタンニン酸第二鉄を還元するような成分(シュウ酸など)が1液に入っていました。
2液は漂白剤で、いわゆる塩素系漂白剤で代用が可能でした。
紙質を傷めるのと、臭いがあることなどから、最近では使われなくなりました。

古典的ブルーブラックインクの現状

昨今では、パイロット以外でも、旧タイプのブルーブラックインクは製造されなくなっているようです。

まとめ

1996年までの旧ブルーブラックインク

古典的ブルーブラックの配合
紙の上で黒さび(耐水性)を作る
青染料+タンニン酸第一鉄(このときは青色)→第二鉄(黒さびとなって黒ずむ)
このような成分構成のためビン内部や万年筆内部に入れた状態のときにカスが発生する可能性があった

現在のブルーブラックインク(パイロット社の場合)

ブルーブラック色の青染料インク。耐水性に優れたものになった
カスが発生しないので、万年筆に安心して使えるようになった