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インク供給機構を問わない、商品共通の問題
インクを最初にペン芯に通すとき
新品の軸で、最初にインクをペン芯に通すとき、インクがペン先先端に伝わるまでに少し時間が掛かります。
一度インクが通れば、以降はサッとインクは通ります。
初めてインクを入れるとき、M形吸入方式でインクを吸入して頂けば、インクは極めて容易に通ります。
一方で、初めてインクを入れるときに、M形吸入方式で首を外してスポイトでインクを入れた場合は、ペン先までインクが伝わるのに少し間があります。
このような場合は、ペン先を下にして、インクを出すように上下に動かして頂けばインクは伝わってきます。インクを伝えるときは、M形吸入方式の場合は、後部つまみをゆるめた状態にして下さい。
すべての商品インク出はテストしておりますので、インクは必ず出ます。
ペン芯にはインクが伝わる縦溝以外も横溝が切られており、横溝には、過剰に供給されたインクが貯められるようになっております。横溝にも最初一度インクを通して頂くのが理想的なため、出来れば一度吸入してからご使用頂くのがベストです。
インクが紙に伝わってきたか否かの判断は、以下の二つの方法で確認できます。
インクがペン先に伝わってきたか否かの確認方法
A,ペン芯のインク溝を見る方法
ペン先には以下画像のように、丸い穴があいています。そのなかに、ペン芯の溝が見えます。
その溝がインクで浸されて液体が見えることにより、インクが伝わってきていることがわかります。
B,ティシューに吸い込ませる方法
ペン先を下にした状態でペン先の先端部分、丸穴から先端までのペン先切り割り部分、ここにティシューを当てます。M形吸入方式の場合は、後部つまみをゆるめた状態で行って下さい。
その結果、どんどんインクがティシューに吸い込まれればインクは伝わっています。
軸からインクが漏れているような感じで、指にインクが着くが、拭き取っても取れない
M形吸入方式の場合は、後掲の首からインクが漏れてくるのところで書かせて頂いた、首の再装着を行って下さい。
軸表面のインクを拭いたのにいつまでも指に着くような場合、以下のいずれかが原因です。
●キャップの中が汚れ、キャップを装着するたびに軸にインクが付着してしまう
インクの汚れが軽度な場合は、濡らした綿棒で拭き取ってください。
キャップ内部のメスねじにインクが入り込んだりした場合は、キャップ内部に水を流し込んでこぼすことによって洗って頂いても結構です。キャップ内部に水を流し込んだ場合は、キャップ外側やクリップ周辺に水が入らないようにしてください。
キャップ内部にインクが付着し、軸と装着するメスねじのねじ山にインクが入り込んだ場合、水を流し込んで洗わないと、キャップ側のメスねじの谷に入ったインクが取れず、キャップ開閉のたびに軸側のオスねじの谷ににインクが付着し、軸を保持したとき指にインクが付いてしまいます。
水はぬるま湯等でなく、水で十分です。
キャップの中に水を流し込んで洗って頂いた場合は、水を綿棒やティッシュで拭って、乾くまで乾燥させてから軸に装着して下さい。
軸側のオスねじの谷に入ったインクの除去は、次項をご覧下さい。
●軸のねじ山にインクが残留している
軸のキャップと装着されるオスねじの谷にインクが入った場合、ねじ山の谷は三角に尖っているため、インクの汚れが取れにくいです。
特に首を外して再装着するとき、首と軸の合わせ目からインクがはみ出し、ねじの谷に入ることがあります。
この場合は、軸のねじに、ごく細く絞った蛇口の水(ぬるま湯である必要はありません)を掛けるようして流して頂くと、ねじの谷に入ったインクが除去できます。
水を掛けた後は、水分を拭き取って、ねじ山に溜まった水分を完全に乾かしてからキャップを装着して下さい。
筆記していたら、ペン先へインクが過剰に供給され、インクが落ちそうになった
当店では、お届け前に、全品テスト用のインクを軸に入れて、テストしておりますが、作業終了後は、インクを洗浄し、乾燥させた上で発送させて頂いております。
ペン芯は、首内部と外側に露出している部分に横溝が切られておりますが、溝部分は、一度インクが通らないと、インクが表面に乗らない性質があります。一度表面にインクが着けば大丈夫です。
これは、エボナイト製・プラスチック製問わずどのペン芯にも共通して起きる現象です。
溝部分にインクが通らない状態でインクが流れると、ペン先先端へ一直線にダイレクトにインクが伝わり、インクがペン先へ供給過剰な状態になることがあります。
特に、M形吸入方式で、吸入動作ではなく首を外してスポイトで軸の中に直接インクをお入れ頂いた場合に起きやすいです。
しばらく使用していれば、キャップ内部の湿度が高まり、溝にインクが満たされ、良い状態になります。
可能であれば、使用開始時は、M形吸入方式の場合は吸入動作でインクを吸って頂ければ、一度の吸入動作で、すべての溝にインクが行き渡り、表面にインクが乗るようになります。
この結果、ペン芯にインクが効果的に溜まるようになり、ダイレクトなぼた落ちは防げます。
なお、M形吸入方式の場合、軸の中の軸内のインク量が少なくなると、軸内の空気が軸を握った手の体温で暖められて、インク出が多くなる場合があります。この場合、インクを補給すれば直ります。筆記中、インク出が多くなってしまった場合は、後部つまみを締めればインク供給を遮断できます。
ペン先裏側のペン芯に、過剰にインクがたまってしまった場合は、ティシューで拭き取ることが出来れば良いですが、ティシューなどが無くても、引き戻し動作をおこなうことにより、インクを軸内に戻すことができます。
キャップを軸に装着するとき、ねじが固い
このような場合、キャップまたは軸のねじの谷に異物が挟まったり、汚れやホコリが堆積してしまったことが原因です。
素材自体が膨張や収縮してねじが固くなることはありません。
解決方法としては、キャップと軸の両方のねじの谷をつまようじのようなものでなぞり、汚れを除去していただくと改善されます。ただし、キャップのねじは4条ねじなので、一カ所なぞるだけではだめで、90度ごとに4つ切られたねじすべて、4溝なぞる必要があります。
作業が難しい場合は、当店にてお掃除させていただきます。
M形吸入方式万年筆特有の問題
吸入機構に問題が無いか簡単に確認する方法について
吸入中、後部つまみを戻すときに、インク液面に浸した首端面より、泡が出ます。
満量吸入まで泡が出ていることで、吸入機構に問題が無いか確認することができます。
首からインクが漏れてくる
製造時は、首からインクが漏れないか、全品圧力を掛けてテストしておりますので、製造時点で漏れる商品は一切出荷しておりません。
皆様のお手元でインクが漏れてきた場合は、一度首を締め直して下さい。
方法は、ペン先を上にした状態で後部つまみを緩めたあと、首を少し緩めます。首を外す必要はありません。
そして、首をピタッと止まるまで、キュッと締めて下さい。ピタッと止まった位置から少し力を入れて締めて下さい。外れなくなる位まで強く締める必要はありません。
これでも漏れてくる場合は、可能であれば、一度首を外し、少しだけ濡らしたティシューで、以下の画像の矢印の部分、首の軸との合わせ目、軸の首との合わせ目の両方を拭って頂くと改善される場合がありますが、通常は閉め直す程度で十分漏れは防げます。
首の方の平面を拭くときは、指先に厚めにした濡らしたティシューを爪先に当て、ティシューが平面にまんべんなく当たるよう、爪先を平面とねじの間に入れ込むようにして拭いて頂くと良いです。爪先は、直接平面部に当たらないようにして下さい。
上記画像の矢印部平面がインクで汚れていても、何の問題もありません。
パッキンを使わずに漏れを防ぐ技術は伝統的にも十分な効果があることが実証された手法ですし、当店では圧力を掛けてテストしておりますので、安心してご使用下さい。
一度首を外された場合にインクが漏れてくる原因の大半は、後部つまみを閉じた状態で首を締めたことによるものです。
漏れが防げない場合は、首と軸の合わせ目を再度気密処理致しますのでご一報下さい。
首を開閉するときは、後部つまみをすこしゆるめた状態で開け閉めするように、とのことだが、後部つまみを閉じた状態で開け閉めしてしまった
結論申しますと、部品を傷めることはありません。
後部つまみを緩めた状態で首を開閉して頂きたいのは、以下の理由からです。
後部つまみを閉じると、軸内部にある後部つまみとつながった吸入機構先端の弁が首後部に接触します。このとき、後部つまみ内部に装着されたスプリングで、首後部と中芯先端が接触します。この結果、接触圧が掛かり、首を締め付けるときに、ピタッと締まりまらず、首と軸の継ぎ目からインクが漏れる恐れがあります。
後部つまみを締めた状態で首を開閉して頂いても商品を傷めることはなく、首を効果的に締めることが難しいだけです。
首を外した状態で中芯を往復したら、軸の中から部品が飛び出してきた
後部つまみを再び引いて飛び出た部品を軸内に納め、首を装着したあと、後部つまみを元に戻して下さい。
飛び出た部品の先端を爪先や適当な部材を使って押し戻すと、先端を傷める可能性がありますので、避けて下さい。
引っ張ると、軸から外れてしまいます。通常のご使用状態で軸から外れることはありませんが、引っ張り出してしまって軸から外れた場合は、後部つまみを戻し、後部つまみの先端に、飛び出た部品を押し入れて下さい。押し入れるとき、少し抵抗があります。作業が困難な場合は、ご自分でなさらず、当店までご連絡ください。
首端面から飛び出た部品を戻した場合、後部つまみを戻すとき、ペン先からインクが出ることがございますのでご注意下さい。
後部つまみを往復させてもインクを吸うことが出来ない
M形吸入方式は、信頼性が高い構造のため、インクが吸入できなくなることはほとんどありません。
この点、以前、直接スポイトでインクを入れるダイレクトタイプという方式のものを生産しておりました。
この商品は、M形吸入方式万年筆と同じ外観でも、吸入動作を行うことはできません。
見分け方としては、後部つまみをゆるめて、中芯がステンレス製でしたら、M形吸入方式です。
黒いエボナイトだった場合、中芯を往復させたときに、カタカタと感触を感じることができればM形吸入方式です。
感触がわからない場合、容易に決定的に判別出来る方法があります。
ペン先を上にした状態で首を外して、首を外した状態で中芯を少し引っ張って、戻すときに、首の端面から部品が飛び出ればM形吸入方式です。
確認終了後は、後部つまみを再び引いて飛び出た部品を軸内に納め、首を装着したあと、後部つまみを元に戻して下さい。
注意:飛び出た部品の先端(そろばん玉状に尖った部分)を押して軸内に戻すことはせず、後部つまみを引いて戻して下さい。
首を装着した後、後部つまみを元に戻すとき、ペン先周辺からインクが出ることがございますのでご注意下さい。
この確認動作は必要が無ければ行わないで下さい。
中古市場やオークションなどで、ダイレクトタイプをM形吸入方式として販売されていることもあり得るため、ご注意下さい。
ダイレクトタイプをM形吸入方式へ改造することは行っておりません。
インクを吸入することができなくなった
M形吸入方式万年筆は、吸入機構が極めてシンプルで合理的な構造を誇りますが、問題無く使用できていたのに、インクが吸えなくなってしまったときは、以下をご確認ください。
中芯の往復動作を行ってみる
中芯を往復させたときに、カタカタと感触を感じることができればM形吸入方式の吸入機構自体に物理的な不具合※は起きていません。
このカタカタという感触を感じることができなければ、M形吸入方式の物理的な不具合が考えられますが、カタカタという感触を感じることが出来なくなって物理的に不具合が生じることはまず起こりません。
※物理的な不具合:吸入機構内部の部品が破損している 等
物理的な吸入機構が正常な場合、インクが吸えない理由は、以下のいくつかの理由が考えられます。
容器にためた水に、ペン先全部(首の先端まで)浸して、水を吸ってみる
水が問題無く吸えた場合は、インク瓶の中で、首の先端までインクに浸っていなかったことが原因です。
また、往復動作の時に、後部つまみを戻したときに満量吸うまでペン先先端から空気が出ているか否かで、確実に吸えているかの判断ができます。満タンになるまで、ペン先先端から空気が出ていれば、吸入は確実に出来ています。
繰り返しとなりますが、往復動作の時に、後部つまみを戻したときに満量吸うまでペン先先端から空気が出ているか否かが、吸入動作の健康状態を確認する最大のポイントとなります。
吸入できない原因として考えられる点
上記のテストで水が吸えなかった場合、以下の原因が考えられます。
・ペン芯のインク粘泥状物※(以下「インクカス」と言います)詰まり
インクは、ペン芯を通じて吸うため、ペン芯が詰まっている場合は、インクが吸えなくなることがあります。この場合は、ペン先からのインク出も悪くなりますので、ペン先インク出の様子で、ペン芯が原因かの判別ができます。
この場合は、ペン芯を洗浄し、インクカスを除去する必要があります。
※インク粘泥状物について
過去の経験では、軸の中で異種のインクが混じった場合や、いわゆる顔料インクをご使用になった場合、インクの粘泥状物が発生して、吸入機構やペン芯に悪影響が及ぼされ、修理したことがあります。
・内部吸入機構の詰まり
インクカスの悪影響により、内部吸入機構詰まりが発生して、吸入が困難になることがあります。
お手元で内部吸入機構に詰まりが発生しているか否かの判断は難しいですが、ペン先全部を容器にためた水に浸して、水が吸えなかった場合は、内部吸入機構の詰まりである可能性が高いです。
内部吸入機構に詰まりが発生している場合、以下の方法で改善される可能性があります。
1,首を外し、軸内部に水を入れて排出することを繰り返し、軸内部のインクを洗う。
2,軸内部に満タン水を入れ、首を装着。この状態で、コップなどにためた水にペン先全部首の先端まで浸した状態で、後部つまみを素早く10~20往復くらい往復動作する強制洗浄動作を行う。
往復動作してもさらに水が吸入されることはなく、ペン先から空気も出ませんが、内部吸入機構をクリーニングすることが可能です。また、この往復動作は、素早く行う方が良く、往復動作の速さによって内部を傷めることはありません
3,軸内部の水を排出し、コップなどにためた水を吸入することが出来るか(吸入動作の際、後部つまみを戻したときに満量吸うまでペン先先端から空気が出るか)テストする。吸入できない場合は、再度2の洗浄動作を数回行ってみる
4,上記でも回復出来ない場合、洗浄直後は吸えてもすぐに吸えなくなる場合は、当店での内部洗浄が必要です。インクの影響の度合いによっては、軸内壁や(インク出に支障なくても)ペン芯の完全な洗浄が必要になります。
なお、内部吸入機構の不具合が起きないように、定期的に水のみを吸入排出して洗浄して頂くのは良いです(上記2の方法ではなく、単に水を吸入し、首を開けて排出するというような方法でじゅうぶんです)。良質なインクを一種類のみ継続して使用している場合は、通常洗浄の必要はありません。普段のインクの吸入動作自体で洗浄の効果があるからです。
インクについてご注意
M形吸入方式は、良質なインクを一種類のみ継続して使用する限りにおいては、不具合が起きることはほとんどありませんが、現在市販されているインクの中インクカスが発生してしまうインクや、単独使用では問題無くても異種のインクが混ざると驚くほどのカスが発生してしまうものがあります。
特にインクは、同一種類のものを継続して使用するべきで、品質に絶対的な信頼性のあるインク(当店の推奨インクはパイロットのブラック・ブルー・ブルーブラックの3種です※)のみをご使用頂くのがベストです。
※パイロットのこのインクは、他社のインクと品質に歴然とした差があり、非常におすすめです。インクですので、色合いや乾きやすさなどのお好みはあると思いますが、インクの品質は素晴らしいものがあります。
吸入は必ず回復します
M形吸入方式万年筆は、自動車のディスクブレーキにヒントを得て開発されたもので、構造も極めてシンプルで合理的です。
一見特殊で複雑な構造なのではないか、壊れやすいのではないか、と勘違いされる向きが多いですが、極めてシンプルで合理的な構造です。
吸入機構の健康状態も、往復動作の時に、後部つまみを戻したときに満量吸うまでペン先先端から空気が出ているか否かで、容易に確認できます。
吸入できない理由のほとんどがペン先全部、首先端までインクに浸っていなかったことが原因で、それ以外の原因はインクの影響によるものが多いです。吸入機構の洗浄で回復することができますが、洗浄出来ないくらい汚れていたとしても、パーツを交換することにより、吸入は必ず回復します。
お手元で吸入が回復しない場合は、分解したり当店以外の修理店に依頼したりすることなく、お求めの店舗までお問い合わせ下さい。構造は合理的でも、分解組み立てには高度な技術を要します。お求めの販売店を経由して、最終的に当店で、しっかりと修理させて頂きます。修理は保証期間にかかわらず可能で、通常は洗浄のみで回復しますが、修理費用を要する場合も、実費で修理いたします。